64話「出発」
30分ほど水上を航行し、タイジョンの領海を出ると無線機からリオの声が聞こえてきた。
『ハル、離水予定位置に到達した』
「了解、全艦隊増速、前進しつつ一斉に離水する!」
その声と共にハルがレバーを引く、衝撃とともに速度が上がっていく。どうやら周りの艦も同じペースで速度を上げているらしく、やがて少しずつ艦首が上を向き始めているのがわかった。
「いまだ!全艦隊離水!」
ハルの声を合図に、戦艦群がふわりとその巨体を空中に浮かせた。同時に戦闘艦橋の全点スクリーンに映される映像や、コンソールに表示される情報も空中航行時の物に切り替わる。
ヴォォォォォオオオオオオオン、、、と機関から発せられる音が段々と大きくなり、艦体の各所から軋むような音を立てながら高度はどんどん上がっていく。
『李部隊全艦離水完了、異常なし』
『カンピオーニ部隊も異常ありません』
『私の方も全艦離水できたわ』
『俺の方も同じくだ』
指揮官級の艦から通信が入ってくる、全艦が異常なく離水できたことを確認してから、ハルは通信機を持ち、全艦隊に指示を飛ばした。
「了解、全艦隊の離水を確認した、各艦巡航高度に達し次第進路を転針し、北東方面に舵を切れ」
『了解』
『了解』
『わかったわ』
『了解』
「ではチャルカ、行こうか、、、チャルカ?」
「あ?ああ、行こう」
ハルは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに前を向き、レバーやボタンを操作しだした。
「チャルカ、主機の状況は?」
「上々だ、このままトウキョウにだってカチコミを仕掛けられるぜ」
「魅力的ではあるが、今は遠慮しておこう、さて我々も転針するとしようか」
前を向くと、前方を行く艦が次々と進行方向を変えていくのがわかった。
不意に右側に体が引っ張られるような感覚を覚える、ミライがゆっくりと旋回を始めたのだ。出力が変わったときに機関から鳴る独特の音(リリーいわく、極初期のカミナルモノ由来の技術を利用しているミライしか鳴らないらしい)を立てながら風を裂いていく。
「旗艦ミライ転針完了、各艦は距離を取りつつフォーメーションAへと移行」
『先頭部隊はすでに配置についています、後部部隊は転針完了まであと2、3分は必要です』
『慌てないで、安全に気をつけて頂戴、転針を完了し次第所定の位置について』
「特に衝突には気をつけてね」
「それ、、、言う必要有ったか?」
「一応ね、一応」
そう言ってハルは微笑した。
『後部部隊、転針を完了しました、これよりフォーメーションAに移ります』
『右舷前方艦隊!隊列が乱れているぞ!早急に、、、』
すると突然、コンソールに「危険」と表示され、ブザーがなり始める。
「なっ、なんだ!?」
ハルの疑問に答えるように無線機が絶叫する。
『右舷前方1時から2時の方向に高エネルギー反応!何かがきま』
ノイズの後に無線機は沈黙した、その1瞬後、ハルとチャルカの視界はオレンジ色に染め上げられた。




