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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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62話「再生か創世か」

会議が解散された後、夕日の差し込む回廊をリリーは1人歩いていた。

ふと外に目を向けると山々の間に日が落ちつつあるのがわかった。西に山地のあるこのタイジョンの日没は早い。

「リリー」

ふと呼び止められる、声のする方向を向くとリオが立っている。

「、、、リオ」

「ジェシカはどうしたんだ?」

「わからないわ、あなたこそアレクはどこに行ったのよ?」

「俺もわからん」

「隣良いか?」と訊ねてからリオがリリーに並ぶ。しばらくはお互い無言だった。

「なぁ、リリー」

「なに?」

「そんな渋い顔してどうしたんだ?」

思わず自分の顔に手をやる、確かに少し考え事はしていたが、自分はそんなに酷い顔をしていたのかと思うと愕然とした。

「何でもないわ、少し考え事をね」

「そうか、何を考えていたんだ?」

リオがそう問うと、リリーが少し動揺したのがわかった。

少しの逡巡の後、彼女は慎重に言葉を選びながら口を開いた。

「なんとなく心配なのよ、これからが」

「心配?」

「ええ、あなたも知っての通り私は勘とか占いとか、そう言うのは信じないけれど、でもどうしても胸騒ぎがするの」

その告白にリオは驚愕していた、今まで弱音を吐いたことのない彼女が、彼女自身がいうように自分の勘すら信じなかった彼女が胸騒ぎを覚えている、弱音を吐いている、それだけで彼にとって驚愕すべき事象であった。そして同時に、「これはただ事ではない」という事を再認識した。

そんな彼の心中を知ってか知らずか、リリーは言葉を続ける。

「例えばあの鉾に力が宿っていて、そして私たちが最終決戦と位置付ける戦いが即時発動されたとしても、それがうまくいくのか、そもそもあの鉾が世界を()()するのではなく()()するものであったとしたら、我々現生人類は滅亡を回避し得ないわ」

「それに、、、」さらに言葉を続ける。

「なんとなく、()()が起こる気がするのよ、、、言葉ではうまく言い表せないけど、何かが起こる気がするの」

不気味な沈黙が流れる、リリーは気まずそうに身を捩った後「ごめんなさい、みんなで士気を高めようって時にバカな事を言ったわ」といった。

「いや、気にするな」

「でも、、、」

「確かに、お前の恐れていることはかなり現実味のある話だ」

2人の脳裏にはハルから聞いたある神話の一節が浮かんでいた。

「国生み」と呼ばれる世界創世物語の1つ、この神話に乗っ取ればあの天逆鉾は世界を再生したのではなく創世した、即ちそれと同じものを使えば現在の世界は無に帰し、新たな世界が創世される可能性があるのだ。それはガーディアンズの敵であるレストニア教の目的をガーディアンズが達成してしまうことになり、「敵に塩を送る」どころか「敵の領地に海を作る」ような事をしているのに他ならない。

「だがな、俺はそうなる事はほとんどないんじゃないかとも思う」

「なぜそう思うの?」

「道具の効果ってのは、要は使い手の意思によって決まる、銃も他人に危害を加えるために使用するか、自分の身を守るために使うかで違う効果が得られる」

「殺傷力か防御力かということね」

「そうだ」頷きかけて話を続ける。

「そもそもあの鉾、もしくはその鉾の刺さっている山には我々が生み出すことの出来ない力が宿っている事は確かだ、そこに意思の介在、つまり使い手の存在があれば、如何様にも使えるんじゃないかと言うのが俺の考えだ」

「なるほどね」

「、、、やっぱりまだ釈然としないか?」

「ええ、神話によればあれを作ったのは神よ?もし神の意思が「世界の創世」と言う形で宿っていたら人間の意思だけでそれを覆せるかしら?」

「もしそうだとしたら、あと1人神が必要になるな、もちろん本物の」

そう言って彼は軽く破顔した。

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