61話「2人の提督」
タイジョン行政府へのガーディアンズ構成員の弔問も落ち着いた13時を少し回った頃、タイジョン行政府の一室ではまた会議が開かれていた。
会議のメンバーはサクラを除く前回会議のメンバー7人に、李舜臣、イニーゴ・カンピオーニ両提督を加えた計9人。話し合われた内容は当然、翌日に迫っていたタカチホ方面への出発の際の行動についてである。
カゴシマ方面に向かう艦隊の指揮官・李舜臣は今年で64歳、後清の都・北京の生まれで元後清軍の軍人だ。
士官学校を次席で卒業後、すぐに駆逐艦の砲雷長となる。その後大小様々な武勲を上げ、大尉になったとき仁との交戦中にその駆逐艦の艦長が戦死すると艦長代理となり、損傷した状態で仁の戦艦を撃沈した。
この功績により23歳で少佐となった彼は第206駆逐隊の副指揮官に就任、以降32歳で指揮官が退役し、繰り上げ昇進で中佐になるまでの9年間、少佐として第206駆逐隊の副指揮官として籍を置き続けた。
彼が第206駆逐隊指揮官に就任してから6年後に発生した第六次武汉攻防戦において、彼の指揮する第206駆逐隊は物質輸送を担当していたが、その最中に仁の巡洋艦3隻から構成される艦隊に遭遇、彼は即座に旗艦以外の艦艇を脱出させ、かつて駆逐艦の砲雷長を務めた経験を生かし、仁の巡洋艦绵阳を撃沈、他の二隻を撃退した上で輸送作戦を成功させた。
この戦いにおける功績大とされた彼は、勲章を授与され、新暦119年2月15日の午前10時に大佐の、同日16時に准将と戦艦杭州艦長と第7戦隊指揮官の辞令を受け取った。同じ日に6時間の間を開けて2回昇進した理由は、生者に2階級特進は許されないという不文律によるものである。
戦隊規模の艦隊を指揮するようになったものの、第7戦隊まで動員されるほどの大規模な作戦はなかなか発動されず、ようやく武勲を挙げる機会に恵まれた時には、彼は既に45歳になっていた。しかしながら、その戦いでは思うように戦えず、結局彼の少将への昇進はさらに5年後、132年まで待たねばならなかった。
新暦132年、ようやく少将へと昇進すると、第2艦隊、第1分艦隊の指揮官に就任。旗艦は今までと同じく戦艦杭州で、艦長職も譲らなかったという。
今から5年前の新暦146年、突如として退役を発表、ガーディアンズに合流した。彼の退役と同時に後清軍は、旧式化を理由に戦艦杭州と2隻の巡洋艦をガーディアンズに払い下げ、それらの乗組員合計300人以上も同時に退役し、ガーディアンズに合流、杭州とその乗組員は今までと同じく李舜臣の下につき、その他の艦艇も基本杭州と行動を共にしている。
この李舜臣をはじめとした後清軍人大量同時退役からのガーディアンズ合流には、ガーディアンズにいる艦隊指揮官が次々と戦死もしくは退役し、ガーディアンズの人材がほぼ尽きかけている事を憂いた皇帝・永棋の意向が有っての事だったのでは無いかと言われている。
妻を持たず、「杭州こそが俺のカミサンだ」と言って憚らない、恐らく初めて正式に艦長を務めた杭州に並々ならぬ愛着があるのだろう。
身長182センチ、64歳という高齢ではあるが、堂々たる体格と風格を有している。
その風格に押し潰され、彼の隣で小さくなっているのがカゴシマ方面に向かう艦隊の副指揮官、イニーゴ・カンピオーニだ。
新共和政ローマ連邦を構成する都市国家の1つであるジェノヴァ出身で今年32歳。
彼は元々家族がガーディアンズのメンバーで、国立学校高等部を卒業した後すぐにガーディアンズに入った。
しかしながら、彼の家はガーディアンズ以外にも商業を営んでおり、彼は普段は10数隻の商船を用いて交易を行っていた。しかし、彼が23歳の時にその船団がレストニア教国の軍艦に襲撃され、どうにかジェノヴァに帰り着いたものの、ジェノヴァもそのレストニア教国に襲撃されていた。
カンピオーニ一族は彼以外皆殺しにされ、商船も彼が乗り込み、ジェノヴァを脱出した一隻を除き全て撃沈、当然家業は廃業、それどころかジェノヴァを含めた多くの新共和政ローマ連邦を構成する都市国家がレストニア教に占拠され、新共和政ローマ連邦は事実上崩壊した。
その後、彼はガーディアンズの活動に軸足を移し、ガーディアンズの補助で資産とともにどうにか一隻だけ持ち出せた商船を巡洋戦艦(彼は戦艦にしたかったのだが船体の大きさの問題で断念し、武装を少なくする代わりに機動性を高めた)に改造、今まで名前さえ付いていなかったその艦に、自身の故国である新共和政ローマ連邦とジェノヴァの再興を願い「ローマによる平和」と名付け、艦体側部には「ローマの元老員と人民」を表し、新共和政ローマ連邦のシンボルマークでもあった「SPQR」の4文字をペイントさせた。
「では両提督共、行動の大筋は掴めたかな?」
行動予定に関する大まかな説明がリリーよりなされ、それを受けハルが確認する。
李は黙って頷き、カンピオーニは「はい」と答える。
「一つ質問をしてもよろしいですかな?」
優雅なバスで李がハルに問いかける。
「もちろん」
「では失敬して、この艦隊はヤク島上空で2つに別れますが、この数の比は?ほぼ5対5で割るのか、それともどちらかにかなりの数が偏るのか」
「それは私も気になりました、数によって統制のしかたも、どこでどう待機させるかも変わってきますから、、、」
「我々としては出来るだけ身軽で行きたい、よってタカチホに向かうのはミライ、ヴィレ、ホッフヌンズを含めた数十隻程度を予想しているから、、、まぁ300隻から400隻ちょっとを頼むことになるな」
彼らの疑問にリチャード博士が答える、その答えを聞いてカンピオーニは顔色を青くした。
「そんな数、指揮した事なんて有りませんよ、、、」
「安心しろ、俺もない」
うろたえるカンピオーニの隣で李が全く持って安心できないセリフを呟く。
「まあそんなに時間もかからないだろうし、ヤク島からカゴシマへの航路は既に各艦に共有しているからそんなに心配しなくても良いと思うわ」
「はぁ、、、」
「それに、ヤク島までは俺やハルたちが指揮をする、お前は李提督と一緒に、ヤク島からカゴシマまでのことを考えてくれれば大丈夫だ」
それでもまだ不安そうなカンピオーニの肩を「大丈夫だ」といって李が叩く。
「じゃあみんな、行動スケジュールと航路は手元の紙の通りだ、明日午前9時、列島方面へと向かう、最終決戦、すなわち旧首都圏における戦いの即時発動も有り得る、今日中に覚悟を決めておいてくれ、以上解散!」
ハルの声でこの日の会議は終了した。




