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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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60話「知らせ」

朝が来た。

太陽が街を洗い、人々は夜の到来によって一時中断せざるをえなかった日々の営みを再開し出す。ここ、タイジョンの王宮でも、いつもと変わらない朝の光景が繰り広げられる()()()()

「陛下、おはよう御座います」

タイジョン女王サクラの私室に彼女の着替えの服を持った侍女が1人入ってきた。

「今日は素晴らしいお天気です、抜けるような青空で、、、気象台からの報告だと明日もいい天気になるそうです。明日はハル様たちのご出立の日、旅立ちには最適のお天気ですわねえ、、、」

カーテンを開け、ここまで話した所で彼女は異変に気付いた。サクラからの返事が一切無いのだ。

今まで彼女を含めた侍女が服を届けにきたとき、サクラはすでに起きているか、眠っていても少し声をかければ目を覚ましていた。少なくともこんなに話していて無反応というのはどう考えてもおかしい。

「陛下、、、?陛下、、、?」

侍女の脳裏にはある一つの考えがよぎっていた。それを確かめるべく、彼女は震える手でサクラの手に触れた。

次の瞬間、彼女はその場にへたり込んでいた。

「おっ、、、おぉ、、、あぁ、、、誰か、、、誰か!!!!」

彼女は絶叫した。

サクラの手に生気は宿っていなかった、まるで石のように冷えたその腕はまさに雪のようだった。 


その知らせがハルたちの元に届けられたのは朝食の直後だった。

朝食を終えて部屋に戻り、なにやら資料を読んでいるハルを尻目に今日は何をしようかとチャルカが思案している所へ血相を変えた侍従が飛び込んで来たのだ。

「はっ、はっ、ハル様っ!」

「どうしたんだい!?そんなに血相を変えて」

「陛下が、、、陛下が、、、!」

「!サクラに何か有ったのか!?」 

それに対して彼は、荒れた呼吸を整えた後にゆっくりとこういった。

「お亡くなりに、、、なりました、、、」

「っ!?」

「なっ!?」

それはチャルカにとっても衝撃的な事だった、彼は昨日までサクラが元気だった事を知っているのだ。

「、、、それで、彼女は今どこに?」

「ご遺体は、行政府第一会議室に安置してあります」

「わかった君はもう戻りなさい、チャルカ!」

侍従を帰し、チャルカへと向く。

「悪いが、黒いリボンを出してくれ」

「あぁ、わかった」

そう言ってチャルカが黒いリボンを出すと、彼はそれを魔術で自身の腕に巻きつけドアの方へと向かった。

「チャルカ、悪いが僕一人で行きたい、君は後から行ってくれ」

そう言ってハルはドアの向こうへと消えていった。


タイジョン行政府第一会議室はタイジョンにおける国会のような役割を持つ会議の開かれる場所であるため、非常に広い。その中央部分には玉座が設けられ、そこへ向かう階の下にサクラの棺はおかれていた。

ハルが会議室に入った時、既に弔問の者が訪れたのか彼女の体は色とりどりの花で包まれていた。

「ハル様、、、」

行政府長官が近付いてくる。

「陛下は後継者を定めずに崩御されました、、、この後、どういたしましょう?」

「、、、、、何故、僕に聞くんだい?」

顔を向けずにハルは長官にそう言った。

「このタイジョンは君たちの国だ、君たちが決めれば良いだろう」

「は、そう、、、ですな、失礼を致しました」

「では私はこれで、、、」そう言って引き下がろうとする長官を呼び止め、ハルは一つ質問をした。

「サクラは、、、サクラは何故死んだんだい?」

暫く沈黙が流れる。

「、、、平たく言うのならば()()で御座います、自ら毒をお煽りになり、自殺なさりました」

「そうか、、、」

今度こそ長官が去っていく、それと入れ替えにリオとリリーが入ってくる。アレクとジェシカを連れていない所を見ると大人数で来るよりも2人で来た方が良いと判断したのだろう。

「ハル、、、」

「リオ、リリー、彼女という巨大な支援者が亡くなったのは痛手だが、我々は先に進まねばならない、彼らは待ってくれないんだ」

「わかってるよ、、、」

「予定に変更は無い、明日の午前9時、全艦抜錨の上列島方面へ向かう、、、リオ、タイジョンにいる全員に半日間喪に服すように指示してくれ」

「わかった」

そこまで言うとハルは足早に会議室を出た。

ハルが見えなくなるとリリーが口を開く。

「ハル、なんか冷たくないかしら?サクラ女王が亡くなったというのに」

「アイツにはアイツなりの考えが有るんだろ、俺たちはそれに従うまでさ」

「私たちは仲間であっても主従ではないのよ?」

「だが目的は同じだ、そしてこの目的を達成するにはアイツに従うのが最も近道であることぐらいお前もわかるだろ?」

それでもやはりどこか釈然としない顔をして棺の中へと視線を向ける。

その美しい顔はどこまでも静かで、目の前に有るものが人の亡骸ではなくまるで彫刻なのではないかと言う錯覚をリリーに抱かせた。

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