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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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52話「風の墓標」

ハルが再び歩き出した頃、一度自室に戻っていたチャルカも宮中の探索に乗り出していた。

この宮殿に入って4日、暇を見つけては探索を行っていたが、紫禁城ほどではないとは言え宮殿は宮殿、広大な敷地を未だ完全には見て回れていなかった。

しばらく歩いていると必ずといってもいいほど新しい物を発見する、もっともほとんどが会議所や行政府の出張所といった実務的な物で、おおよそ宮殿らしいものは回廊と、所々に点在する小規模な庭園、そしてチャルカ達の泊まっている建物を含めた居住区ぐらいな物だった。

「、、、?」

その場所に続く廊下を見つけたとき、チャルカはまた小規模な庭園を発見したと思った、しかし、それは違った。

細く、薄暗い廊下の先に萌葱色の光が見えた、チャルカは三分の意外感と七分の好奇心とに誘われ、その廊下を進んだ。

「、、、!」

薄暗い廊下から明るい外へいきなり出た事によるホワイトアウト、それが収まり、自身の網膜に映った景色を見たとき、思わずチャルカは息を飲んだ。

一言で言うのならば絶景であった。

一面見渡す限り草原が続き、緩やかな風に撫でられた草が潮騒にも思える音をたてていた。

彼の視界は萌葱色で占領された。

ふと、萌葱色の世界の中で一点、灰色の物を見つけた。

その灰色の物が有る場所は小高い丘で、一本だけ木が植わっていた。

木の上のどこまでも青い空を雲がゆっくりと流れている。

彼は今度は単純な好奇心のためにその丘へと歩を進めた。

「墓、、、?」

そこに立っていたのは墓石だった。

チャルカの呟きに墓石は、静かに冷たい沈黙を返すだけだった。

チャルカはその墓に刻まれている名に目を向けた、そこには「Tsubaki Yamagami」の文字が刻まれていた。

(『ツバキ ヤマガミ』、、、まさか、、、)

チャルカの心の中にはある1つの物語が浮かんでいた。

ハルから聞いたミライ建造の、ガーディアンズの過去の物語。

そう、ここに眠っているのはガーディアンズ設立メンバーの1人、ツバキ、「山神 椿」その人なのだ。

(ツバキの姓はヤマガミと言うのか、しかし何故ここに、、、)

チャルカは何故このタイジョンの、しかも宮殿の奥まった所の草原に彼女の墓が有るのか、それがわからなかった。

「あら、ここを見つけたのね」

後ろを振り返る。

そこにはゆっくりと丘を登ってくるタイジョン女王、サクラの姿が有った。

「ここへの入り口は狭い上に奥まった所に有るから、気がつかないと思ってたわ」

「やることも無いからな、宮殿を探検していたら見つけたという訳だ」

チャルカは最初、サクラに敬語を使おうとした、しかし、サクラはそれを拒んだ、彼女は堅い言葉使いをあまり好まない。

無論時と場合は弁える、しかし、普段の会話でまで堅苦しい言葉を使われると息が詰まってしまうというのだ。

「そう、、、ハルから聞いているかしら?ここに葬られている人のこと」

サクラが墓の前にかがみこむ。

「『山神 椿』、、、ハルを含めた4人のガーディアンズ設立メンバーの1人、彼女は結局、この地で最期の時を迎えたわ、そしてここに葬られている、、、ガーディアンズはあなたもご存知の通り、ハルが継承して今に至るわ」

サクラが立ち上がる。

「私は、物心ついたときからよくここにくる、、、特に何かに縋りたいような時はね」

そのままサクラは丘をゆっくりと下っていった。

「気をつけろよ」そういってチャルカは彼女を見送り、再び墓に視線を向けた。

墓石の上には、サクラが供えて行った白いカーネーションが風に揺れていた。


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