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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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42話「宮殿と孤児」

皇帝への謁見の終わり、皇帝が不意に話し出した皇太子の話から発展し、結局チャルカは皇帝と、次代の皇帝たる皇太子の両名に会うこととなった、緊張と、そうでなくても使い慣れない敬語を使っていたがために、紫禁城を出たとき、チャルカはかなりぐったりとしていた。

「まあチャルカ、お疲れ様」

「本当に疲れたよ」

皇帝が皇太子の話を出したのには訳があった、なんでも皇太子・永醒(ヨンスァン)に嫡福晋と呼ばれる正妻が付いたのだという、相手は元軍人でハルとも面識のある烏拉那喇(ウラナラ)如懿(ニョイ)、元軍人と言うこともあり、宮廷内外で大きな反響を呼び、多くの人間に反対され、如懿自身も自分が次代の皇后たる資格が有るのかと疑問に思っているのを必死に説得し、結婚という大恋愛劇を演じたそうである。

皇太子夫妻の住む宮殿には少し頼りなさげな男と、とても端正な顔立ちをしているが、瞳には炎のような覇気を感じる女がいた、一見するとどちらが配偶者なのか、チャルカにはわからなくなりそうであった。

皇太子の宮殿でもそれなりの長話をした、如懿はチャルカの見立て通りとても強い女であった、強く、美しく、そして何より優しく、そんな所がチャルカには魅力に感じた、彼女は美しいだけではない、彼女自身は次代の皇后たる資格が有るのかと悩んだそうだが、皇后に彼女以上に向いている人間がいるのだろうか、そうとまで感じるほど、チャルカは如懿を好ましくおもったのだ。

「にしても、彼があんな大恋愛劇を演じるとはね」

「正直驚きだよ」苦笑しながらハルがいう、それにチャルカは同意した、正直皇太子永醒はそんな大恋愛劇を演じられるほど度胸のある人間には見えなかった。

「人は見かけによらないのかもしれないな」

「んー、、、どちらかというと彼の潜在的な能力なのかもしれないね」

「能力?」

「そう、人は見かけによらないとよくいうけど、それと同じように見かけ上は何も能力が無かったとしても、潜在的にはその能力があるっていうのは良くある話だ」

「なるほどな」

チャルカはわかったようなわからないような、そんな微妙な声を出しながらハルと共に北京(ペキン)の市を歩く、夜ももう更け始めているとはいえ、皇帝のお膝元、いわば首都だけあって、未だ市の活気は衰えを知らない、道行く人々の声、出店の調理の音、よくわからない器具を売りさばく商人の叫び、それらが混ざり合って喧騒を形成していた。

「、、、ハル?!」

考え事をしながら歩いていたからか、チャルカはハルがとある出店の前で立ち止まっていた事に気がつかなかった、辺りを見回すと、竹でできた蒸し器から白い蒸気がもうもうと立ち込める出店の前にたち、店主から白い何かを4つほど受け取っているハルの姿を見つけた。

「ハル?それは、、、」

「こっちだ」

そう言うと、ハルはすぐ近くにある薄暗い路地へと入っていった。

「こんなところになにが、、、っ!?」

そこにはボロボロの布切れを身にまとい、痩せこけたみすぼらしい格好をした、恐らく兄弟であろう2人の少年がいた、ハルは迷うことなくその少年の前にしゃがみ、目線を合わせると今さっき店主から受け取ったばかりのまだ湯気の立つ白い何かを差し出した。

「君たち、これを食べなさい、そこで買ったマントウです」

途端に2人の少年の表情はパッと明るくなり、口々に「ありがとう、ありがとう」といいながらそれを受け取り、路地の闇に消えていった、立ち上がったハルは悲しそうな顔をしながらそれを見送った。

「ハル、あれは、、、」

「戦争で親を亡くした子どもたちだ、、、後清と仁の戦争はもう100年以上続いている、ここ数年は大きな戦いは無いが、それでも年間150万人以上の戦災孤児が生まれ、内100万人以上がその年の終わりまでに餓死、もしくは病死しているとされている、、、そして、我々も仁で同じ状況を生み出している、、、まったく、こういうのを見ると、自分の無力さに腹がたつよ」

そう言ってハルは拳を握りしめた、チャルカはそれになんと声をかければ良いのかがわからず、結局ハルが「行こうか」というまで、黙ったままだった。

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