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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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40話「貴人」

近付いてきた軍艦はどうやら敵ではないようだった。

そもそも1隻でミライに攻撃を仕掛けるにはあまりにも武装が貧相すぎるし、どんなに接近してきてもハルが一向に警戒しないことからあの艦が敵ではないことは自明だったのかもしれない。

「チャルカ、向こうの艦に乗り移る、空中静止モードに切り替えてくれ」

艦同士の距離が狭まり、ほぼ横付けされているような状態になってからハルがそう指示を出してきた、ハルはもうボタンを押し始めている、それにならいチャルカもいくつかのボタンを押し、レバーを操作する、そうこうしている内にミライに横付けした軍艦は通路のようなものを、艦底部の出入り口付近に伸ばしていた。

「よし、行こうか」

言うが早いかハルはすでに艦橋を出始めていた、チャルカは急いでそれを追いかけ廊下へと出た。

「あの艦、後清のか?」

「うん、多分紫禁城防衛部隊所属だろうね」

「シキンジョー?」

また聞いたことのないワードが飛び出してきた。

「紫禁城、後清の皇族が代々居住してきた宮殿だ」

やがて艦底部のドアの前までやってきた所で、ハルが何かに気がついたような顔をしてチャルカの方に向き直った。

「そうだ、これをするのを忘れてた、チャルカ、少しごめんよ?」

ハルの手が不思議な動きをしたかと思うと、ズゥン、、、、と耳に何か詰め込まれたような感覚に陥る。

「なっ、何をしたんだ?」

「翻訳魔術をかけたんだ」

「翻訳魔術?なぜ?」

この世界の言語はランゲ・アランに統一され、翻訳の必要はなかった筈だった。

「実はこの後清のある中華圏ではいまだに独自の言語が使用されている、後清の宮廷役人ともなればランゲ・アランぐらい使いこなせるだろうが、郷に入れば郷に従うのが一番だし、何よりそれが礼儀だからね」

「なるほどな、翻訳までお手のものとは、便利なんだな、魔術って」

「日々その恩恵に預かってるじゃないか」

今度こそハルが扉のコックに手をかける、プシューと何かが抜けるような音と共に扉が開く。

「向こうにつくまではかなり風が強いから気をつけてよ?」

「わかった」

ハルの言葉通り、山、しかもかなりの高度だからか風はかなり強い。

「うわっ!」

「っと、だから言ったじゃないか、気をつけろって」

「悪い、助かった」

風に飛ばされそうになりながらも、どうにかこうにか後清の艦に乗り移った、その先には1人の男が立っていた。

「火貴人!お久しぶりです!」

「李考公!やっぱり君か!」

いきなり聞き慣れない言葉が飛び出してきた、チャルカはどこかデジャヴを感じながらもハルに話しかけた。

「なあハル、火貴人ってなんだ?」

「あ、もしかしてこの方が噂のチャルカ殿ですか?」

「早いね、もう聞いていたのか」

「チャルカ殿、私は李考公と言います、はじめまして」

「ああ、俺はチャルカだ、よろしく、、、で、火貴人ってのは、、、」

「ああ、失礼、私から説明致しましょう」

李考公は貴人というのが後清における貴族の階級の一つであること、かつては皇帝の妃の階級だったが、後清になってから貴族の階級に改められたこと、チャルカの知るガーディアンズメンバーでは他にリオとリリーが貴人になっていることを説明した。

その説明は非常に丁寧で、後清に来るのが初めてなチャルカでもすぐに理解する事ができた。

「ところで李考公、君はなぜここに?」

「陛下からの伝言をお伝えに参りました」

「なんとなく内容は察しているけど、、、それで、陛下はなんと仰せに?」

李考公は緩く微笑んでからハルに言った。

「後清を通るのであれば挨拶ぐらいしていけと、そう仰せになりました」

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