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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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38話「進空式」

「本当に俺がやっても良いのか?」

翌日、出発の準備を済ませ、いざ式典という時に、決まりが悪そうにソラが問いかけてきた、事前の準備で、完成した艦の命名書はソラが読み上げる手はずになっていたのだ。

「大役を担う奴がそんなんでどうする、大丈夫だよ、コイツの建造での一番の功労者はお前だ」

「それをいうならツバキだって、お前ら2人だって同じくらいの仕事量じゃないか」

「あなたの事を推薦したのは私よ」

いつの間にかいたツバキが柱にもたれながら言う。

「そもそも、この艦の建造自体、あなたが発案した物じゃない、生みの親が命名してあげないでどうするのよ」

「だ、そうだが?」

呆れたように言うツバキ、それを受けニヤニヤしながらソラを見つめるハル、そして「じゃあ、遠慮なくやらせてもらうぞ」と言いながら気合いを入れ直すソラ、準備は整っていた。

「じゃ、主役の準備も出来たところでそろそろ行こうか、ユウが首を長くして待っている」


「遅い」

いつも通りほぼ無表情ながら若干不機嫌そうな雰囲気を醸し出しているユウが、小屋から出てきたソラ一行を視界に認めてから発した第一声はそれだった。

「すまんすまん、主役の準備に手間取った」

「ソラ、、、またごねたの?そろそろ潔さを身につけた方が良いとおもうけど」

「うるせえ!」

ユウがジト目でソラを見つめる、うるさいと言いながらも、どこか心当たりが有るのか、特に反論もせずに艦の前に立つ、完成した艦は巨大で重厚感が有りながらも、どこか生物的な温かみも感じる、そんな不思議な雰囲気を放っていた。

「みんな、準備できてるか?」

「勿論よ、さ、始めましょう」

ツバキに促されてソラが艦に向かって向き直る、口元に手を当てて咳払いをしながらも手元の紙に目を落としている。

(これが、、、、俺らの、、、、)

手元の紙を見つめながらソラは一種の感慨に浸っていた、建造開始から約2年、彼自身が計画の立案者だっただけ有って、この艦にかける想いは、情熱は他の3人を凌ぐものが有った、勿論、ユウも、ツバキも、ハルだってこの艦には特別な思い入れが有るだろう、しかし、この艦にかけた想いの大きさでは誰にも負けない自信があった、誰にも負けたくなかった。

「命名、本艦を戦艦「未来」と命名する」

「未来」彼らが願いを込めて定めた名をソラが読み上げた瞬間、その艦は戦艦「未来」となった、それは未来にとっても、そのコアたるカミナルモノにとっても、初めて付けられたら固有名詞であり、それによりようやく自己の確立を可能とした、新暦12年10月18日の事である。

その後、未来の建造を察知したレストニア教の手から逃れるため中華圏に渡るために処女航海を行い、そして「争いの10年」の激闘をくぐり抜け、やがて言語体制がランゲ・アランに集束され、最早その言葉の意味を知る者がハル1人になってからも音だけは残り、それが今日の「ミライ」となるのである。

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