30話「人間の敵は」
「戦争が?」
パンを食べながらソラが聞き返す、再会の日からはや6年、共にカミナルモノを狩り、そして寝食を共にしてきた彼らが拠点とする山小屋での朝のことだった。
「ああ、起きるんじゃないかっていうんで市場もっぱらの噂だよ」
「それなら私も聞いたことあるわ、みんな生活がどうなるのか心配そうにしてたわね」
ツバキが同意する。
「でも、何でもって今になって」
「ほら、中国の辺りに帝国が2つできたじゃないか、えーと、国名は、、、、」
「愛新覚羅氏の建てた後清と陳氏の建てた仁だろ」
「流石ハルね、正解よ」
新聞を漁っていたツバキが一枚の紙面をヒラヒラとさせながら言ってくる。
「やっぱり、大方2人の皇帝が旧中国エリアでの覇権争いをおっ始めようとしてるっていうんだろう?」
ーよくやるねぇ、そう言わんばかりにハルが息を吐きながら言う。
「表面上はね」
「裏なんてあるのか?」
含みのある言い方にソラが身を乗り出す、興味なさげにしていたハルもさすがに気になったのかユウの方を凝視している。
「これもあくまで噂にすぎないんだけど」そう前置きをしてユウが続ける。
「この争いにはある教団が絡んでるんじゃないかっていう話だよ、その教団の名前は「レストニア教」、この世界を不完全な世界、カミナルモノを神の与えた福音と論じている、そして「完全で浄化された世界」の到来のために色々動いているっていう話だ」
「「完全で浄化された世界」、、、ねぇ」
「インチキ宗教の宣伝の常套句じゃないか」と付け加えると「やめとけやめとけ」とソラに止められる。
「んで、ここからは俺の考えなんだけど、話してもいいかな?」
「もちろんよ、ユウ」
「ありがとう、じゃあつづけるよ、彼らが「完全で浄化された世界」を作るとして必要なのは3つ、方法と材料と触媒だ、そのうち方法はなんとなく予想がつく、恐らく彼らは「大陥没」を再開させて「完全で浄化された世界」を作るつもりだろう」
「「大陥没」を再開、そんなことできるのか?」
「不可能ではないと思う、どころかこれも俺の考えなんだけど「大陥没」は自然に発生したものではなく人為的に発生させられたものではないか、そう考えているんだ」
「なっ、、、!?」
衝撃が走る、ちょっとやそっとでは顔色1つ変えないハルですら雷に打たれたような感覚に襲われた。
「じ、、、じゃあこの世界は人為的に生み出されたものなのか!?カミナルモノも!?今までみてきた争いもこの呪われた体もそうだっていうのか!?」
「ハル!」
思わずユウに詰め寄る、しかしユウは至って冷静に彼の出した結論を述べていた。
「その可能性は十分あると思う、レストニア教はカミナルモノ由来の技術を作り出したそうだ、それも最近ではない、恐らく大陥没後二年以内にはその技術は成立していたらしい、おかしくないか?そんなに早く、いわば生物兵器に等しいものを開発できるなんて、そうなると個人的にだせる結論は「レストニア教は大陥没以前から存在しており、大陥没とカミナルモノは彼らが人為的に発生、製造したものだった」ということだけなんだよ」
体中の体温が一気に冷却されていくのを感じる、背中を腹を冷たいものが渦巻いているような感覚に襲われる。
「じゃあ僕は、、、僕は人間を、、、同じ人間を怨まなければならないのか、、、?」
その問いに誰も答えることはできなかった、数分間の沈黙の後ツバキが口を開く。
「やっぱり、人間の敵は人間だったのね」
彼らの周りで情勢は確かに混乱と緊張を高めていた、しかし、それでもなおミライ起工まで2年、「争いの10年」まで3年を待たねばならなかった。




