26話「貘」
その時チャルカはハルが「場面転換」と言った意味がようやくわかったような気がした。
それはまるで物語の場面が切り替わるかのようになんの前触れもなく、それこそ魔力の動きすらなく発生した、マルジャーナ姫が叫んだ瞬間チャルカは森の中に立っていた。
「まずはさっきの部屋に戻るか、、、」
チャルカはすでにハルと合流するより先にマルジャーナ姫を攻撃すべきと判断した、恐らくハルも同じ判断をしているだろう、ならばマルジャーナ姫の所に行くことでおのずとハルと合流できるはずだ。
(心を落ち着かせて、、、強く念じるんだ、あの場所へ行きたいと)
目を閉じて深呼吸をする、行きたい場所をイメージする、ゆっくりと感覚が研ぎ澄まされていくような気がした。
(落ち着いて、、、落ち着いて、、、落ち着「チャルカ!」!?)
いきなり呼びかけられて目を開ける、目の前にはハルが立っている、そしてこの臭いと薄暗さ、間違いなくチャルカは宮殿に戻ってきていた。
「チャルカ、大丈夫か!?」
「あぁ、どうにか成功したよ」
「ナンデ戻ッテキタノヨォ!!デテイキナサイヨォォオオオ!!!!!!」
またマルジャーナ姫が場面転換を繰り出す、しかし、今度はチャルカも場面転換のコツを掴み、場面転換をされた瞬間に場面転換をしかえし、何度も森と宮殿を往復していく。
(しかし、このままでは進展が無いぞ、どうする、、、、?)
攻撃するには宮殿にいる約2秒ほどの間にしなくてはならない、ならば一度で攻撃を当てようとは思わずに何回かに分けて照準を合わせるのが良いだろう、チャルカはそう考え、拳銃を取り出して構え始めた。
(まだだ、、、まだ、、、、もう少し、、、あぁっ、少しずれた、、、、、、、、、、よしっ、次だ!)
その次に宮殿に場面転換した瞬間、チャルカは両手に握る拳銃の引き金を引く、銃口から紫がかった煙が爆発的に広がる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
銃声が響くのが先か悲鳴が先か、どちらにせよマルジャーナ姫は目を押さえてその場に倒れ伏した。
「目ガ、、、、目ガアアアアア!!!!!!」
「!?場面転換が止まった?」
「ハル!今だ!一気に片を付ける!」
一瞬困惑していたようなハルだったが、一瞬後には全てを了解し、両手をカッター状に変形させている。
「、、、サナイ、、、許サナイッ!コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル、、、、コロシテヤルゥウウウウウウ!!!!!!シンデシマエエエエエエエエエエ!!!!!!」
「!?」
上半身だけを起こし、鬼のような形相をしているマルジャーナ姫が右腕をチャルカに伸ばす。
その瞬間頭が割れるように痛み、頭の中に声が響いてきた。
「なんでこの子が生き残ったのかしら?」
「、、、母様?」
気がつくとチャルカは黒い空間にいた、目の前には3人の家族が立っている、どこかで見たような構図だ。
「全くだ、剣なんて渡したからもな」
「、、、父様?」
「なんで僕が死ななきゃならなかったの?」
「そうだ、この役立たずに剣を渡すぐらいならチククに渡しておけば良かったな」
「まったく、、、役立たずの癖に生き残ったりして、不愉快極まりないわね」
「そんな、、、チクク、、、みんな、、、やめてくれ!俺は、、、俺は、、、役立たずなのか?俺は生き残ったらいけなかったのか!?」
「当たり前よ!」
「当たり前だ!」
「当たり前だよ!」
「「「役立たず!役立たず!死んでしまえ!」」」
3人の声が輪唱ようにループする、頭がガンガンと痛み、チャルカはついに頭を抱えてうずくまった。
「うっ、、、うぅ、、、、」
「チャルカ」
不意に肩を抱かれる、意識は黒い空間から宮殿に戻っていた。
「それは幻想だ、その声は幻聴だ、耳を貸してはならない」
「、、、わかってるよ、ハル」
肩から手をどかし立ち上がる。
チャルカは目の前の女を人の心の弱い所に漬け込むゴミ以下のバケモノとしか認識していなかった、特異魔術とも通常魔術とも違う魔力の周り方をしていることをチャルカは体の内から感じていた。
「、、、チャルカ?」
それを感じたのかハルが心配そうに呟く。
「アラァ、、、マダヤルノォ、、、?」
「ああ、これで終わりだ、、、心を食い物にしかできないバケモノが」
吐き捨てるようにそういい、魔力を足元におくりながら手を上に突き上げる、風が吹き、地面が水のように揺れ、底からナニカが浮上してきた、それは象のような鼻、虎のような足、熊に似た体を持つ巨大な獣だった。
目の前のバケモノの顔が恐怖に染まる。
「ナッ、、、ナニヨォ!ナンナノヨォ!!!コイツゥ!!!」
「!?まさか、、、、霊獣・貘!?」
「貘!この者を闇に帰せ!」
巨大な貘は悪夢を喰らうという役目に、そして自身の主の命に従い悪夢を喰らった。




