22話「嵐の脱出」
「来たな、、、」
霧深い渓谷に身を潜めて2週間、よくここまで見つからなかったものだと思いつつ、ようやく紛れ込むのに相応しそうな大嵐の雲を見つめながらチャルカが呟く、離陸に向けてミライは早くも戦闘形態に移行しており、艦橋は戦闘艦橋になっていた。
「ハル、渓谷の地形柄、霊波が反射してしまってる、一定高度に達するまでレーダーは使用不可だから気をつけてくれ」
「アイアイサー!任せてくれ!」
山尾根によって元々強かった風がさらに増幅されている中をミライの巨体がゆっくりと飛翔し始めた、霧を切り裂き、山尾根を越え、ようやく風と霧を抜け出した所にはシヴァの戦艦が待ち構えていた。
「!?待ち伏せ!?」
「バレてたか、、、グワァ!?」
いきなり衝撃が走る。
「艦中央部に被弾!」
「チックショー!直したばっかりなんに!」
歯ぎしりをしそうな勢いでハルが叫ぶ、シヴァの戦艦は1隻だけでなく大小10隻ほどの艦隊のようだ。
「右舷側!30°から90°にかけて魚雷!」
「ちっ!迎撃は!?」
「対空砲弾の装填間に合わない!うわっ!?」
なんの前ぶれもなく艦が倒立する、頭に血が上り始め、少なくとも快適とは言い難かった。
「チャルカ、少し荒業を使うよ」
「、、、好きにしろよ」
諦めたようにチャルカが呟いたのが先かミライが倒立したまま一気に高度を上げ始めたのが先か、どちらにせよチャルカの体には凄まじい負荷がかかっていた。
「ふっ、、、うっ、、、くぅぅ、、、」
「もう少し、、、もう少しで、、、!よし!」
艦が元に戻る、呼吸を整えて全天スクリーンを眺める、そこにはただとんでもないスピードで渦巻く灰色の雲が見えるだけだった。
その頃シヴァ艦隊の艦橋ではこんな会話が繰り広げられていた。
「司令!ミライが突如として高度を上げ始めました!」
「なに!?高度を!?上空は気圧が不安定な危険な状態ではないのか!?」
「そのはずですが、、、」
「ミライ、雲に入ったようです!信号ロスト!」
「ぬぅ、、、奴らついに気でも狂ったか、、、?」
釈然としない表情で窓の外を睨む、しばらくの間そうした後、全艦隊に艦隊撤収命令を発令した、ミライは損傷している状態で雲に入ったことで沈んだと判断したのだ、後世の歴史家達はある意味彼がこの世界を救ったと論じている、もしもそのままミライを追撃し、撃沈していたらば今の世界は無かっただろうから。
「ハルー、どうだー?」
「うーん、、、気を抜くとすぐに流されそうになる、チャルカ、国境までは?」
「あと10000フィート、10分もあれば着くよ」
「国境を越えたら下に降りよう、バリアを張ってるとはいえこの損傷では長くは持たない」
「了解」
ハルの言葉に違わず、ミライの部品が切り裂いた風は白い筋となって後ろに流れていっている、まえはほとんど何もみえず、変化といえば時々目の前で炸裂する雷ぐらいのものだった。
「ハル、国境を越えた」
「了解」
高度を上げたときとは違い、今度はゆっくりと緩やかに高度を下げていく、段々と雲が薄くなり、やがて地上が見え始めてきた、そこには
「また山かよ、、、」
さっきまでとあまり変わらない山岳地帯が広がっていた。




