21話「濃霧に修理に心臓に」
「おーい!どうだー!?」
ミライの甲板の舷側から下に向かって大きな声で呼びかける、周りは濃霧に包まれ、20m先さえ禄に見通せない程だった。
「だーめ、砲身が溶けてひん曲がっちゃってる」
いつの間にか魔力を使って上がってきてたらしいハルがチャルカの横にフワリと降り立つ。
「よくわかんないものを無理して使うからだ、7基使えないのは痛いぞ」
「多分さっきのあれで艦隊が集まってる頃だろう、エンジンも一部損傷が出てるし、さてどうしたものか」
口に手を当て考え込むハル、魔動破壊弾を撃った直後、ハルとチャルカが見たのは沸き立つキノコ雲とドロドロに溶け、オレンジ色をしている岩盤だった、巨大な基地は影も形も無く消滅していた、エンジンの異常を示す警報が鳴ったのは丁度そのタイミングだった、取りあえず確認しようと近くの霧深い渓谷に大きなミライの艦体をねじ込み今に至る。
「俺の特異魔術で部品出そうか?」
「お、それは助かる、エンジンの方はそれで頼むよ、砲身は、、、交換できるだけのスペースが無いからいいや」
「ちょっとこっちきて」そう言ってハルが手招きをする、彼について行きながら2人しか乗っていない割には大きく、複雑な艦内を進む、そういえばこの艦は乗ってる人数に合わない作りをしている、チャルカを拾ったのはイレギュラーとして、ハルが1人で乗っていたはずなのに、艦橋の席も、個室の数も、ラウンジの食器の数にいたるまで4人分ずつ用意されている、何かあったときのためにハルが用意しておいたのか?しかしチャルカにはハルがそこまでマメな人間には思えなかった。
「チャルカは見るのは初めてだったかな?」
「あ?ああ、うん」
「そっか、よし着いた」
目の前には重厚感のある鉄の扉がそびえている、ハルが扉に付いてるコックにチョンと指を触れるとコックはひとりでにグリリリリンと回転し、いとも簡単に扉が開け放たれた。
「これが、、、」
「そう、ミライの心臓部、メインエンジンだ」
その巨大な部屋の中には、ミライの縦幅一杯に有るのではないかというほど背の高い機械が鎮座していた、無数のパイプが接続され、その各所から蒸気が噴出している、ミライの外観と同じく、どことなく無理矢理感は否めないがその分力強さを強く感じる、そしてその真ん中付近、ガラスケースのような物の中には巨大な心臓が有った。
「!!??心臓!?」
「あぁ、このミライはごく初期のカミナルモノ由来の技術を使って建造されたんだ、あの心臓はカミナルモノのそれ、力の暴走をおこしかけていたカミナルモノを魔術で押さえ込み、心臓部分だけの状態にしたものだ、物理的に破壊されない限り動き続けるから永久機関なんだよ」
「へぇ~」
「さぁ、作業にかかろう、今からいうものをちょっと作ってくれ」
「チャルカ、どう?」
「、、、うん、問題なく動いてる、圧力も問題無い、いつでも飛べるぞ」
そう言うとハルは安堵したのか大きな溜め息をついた。
「あー!良かった、本当にチャルカ様々だよ」
損傷していた部品を交換し、ついでに穴のあいた外壁を塞いでミライは完全とは行かないがかなり修復されていた。
「なに、あんなの朝飯前だ」
「そりゃあ頼もしい」
顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
「さて、飛べるとなったらどうやってここを脱出するかだな、今は霧と闇が隠してくれてるがいつまでもそうとは行かないだろうからな」
「それなんだけど、この辺りはそろそろ雨期に入る、そこで来る嵐の雲に紛れてシヴァを出ようと思ってるんだ」
「なるほどな、間違えても落とさないでくれよ」
「任せなさい」
そう言ってハルはニッコリと笑った。




