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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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19話「人対人」

ヒュワアアアという風切り音を聞きながらチャルカはレーダーのモニタを穴が空くのでは無いかというほど見つめていた、初めてこの風切り音を聞いたときは驚いたものだが、少なくない時間このミライに乗り、旅をしてきたチャルカはこの風切り音が空中航行時特有の物だと言うことを知っていた。

シヴァの国境が近かった、このリヤド国とシヴァは互いを国として認めてはいなかったので国境としてはっきりと存在している訳では無かったが、このあたりはかねてより両国の武力衝突が発生し、多くの血肉によって舗装されている、誰が呼んだか死の渓谷(デスバレー)、そういった所謂危険地帯だった、シヴァが近付くにつれて緊張感が高まっていくのを肌で感じる、何も艦隊がいたりしたわけではない、しかし、大地が、木が、水が、風が言っている、「ここは危険だ」と。

「チャルカ、周りにシヴァの艦隊はいるかい?」

「今の所シヴァの艦隊どころかリヤド国の警備隊の艦すら見えない、国境の守備、甘すぎないか?」

「、、、静かだねぇ」

「静かすぎるんだ、国境を越えたすぐの所には大きな基地があるんだろ?そこを中継地点に一気に攻められたらどうするつもりなんだか、、、」

それからもチャルカはブツブツと言っている、よっぽどリヤド国の警備の甘さが気に入らないようだ、それを「落ち着いて落ち着いて」と制しながらハルは何か操作をしていた。

「どうしたんだ?ハル」

「あぁ、この先、その基地から艦隊が来るだろう、確実に艦対艦の戦いになる、その準備さ」

「準備?」

「聞くより見た方が早い」

そう言うと手元のレバーを引っ張った、一瞬衝撃が走り、艦橋の座席と目の前のモニタや計器類だけが下に下がっていく、周りから壁がせり上がってきて上を塞ぐ、窓からの光が遮られ完全な暗闇が辺りを覆う。

「お、おい!真っ暗で何も見えないじゃないか!?」

チャルカが焦ったように言う。

「まぁ、そんなに焦らないで、すぐに元に戻る」

こうなるのは想定済みとでも言うようにハルの落ち着いた声がチャルカを諫める。

バウンッ!

「!?」

いきなり光が彼を包む、急激な光度の変化に慣れるまで数秒のラグが有ったが、光に慣れた目に写ったのは前、横、後ろ、頭上のみならず足の下にまで流れている外の映像だった。 

「これは、、、」

「ミライの戦闘艦橋だ、霊基バリアだけじゃなくて普通の装甲も装備してあるから安全性は折り紙付きだ、そしてこの全天モニタ!これなら360°どこから敵が来ても大丈夫さ!」

「へぇ!そりゃあ良い、これなら敵も狙いやすそうだ」

「火器管制は俺の仕事だしな」そう言うチャルカに微笑みながら「じゃあ、行こうか」そう言ってハルは速度を上げた。


「あまりにもいきなり過ぎやしないか?」

呆れたようにチャルカが言う、彼が見つめるレーダーのモニタにはミライの後を少しずつ距離を詰めながら飛んでいる船がいることを示す二つの点が表示され、なおかつそれが敵であることを証明する「識別不能」の表示がされていた。

「「識別不能」、、、ねぇ、十中八九敵だろうな」

後ろを見ていたハルがクルリと前を向く。

「マイソール級巡洋艦が二隻か、、、厄介な相手だな」

「なぁ、ハル、やっぱりミライが他の船より速いっての嘘なんじゃないの?」

「なっ、何を言う!」

「だってめっちゃ追いつかれてるし、、、」

「それは相手が速すぎるだけなんだ!こっちが遅い訳じゃ、、、!?」 

爆発音と共に衝撃が走る。 

「クソッ!後部に被弾!どうにかバリアで防いだが二隻相手では長くは持たんぞ!」


「初弾は敵に命中したもののバリアで弾かれました」

双眼鏡を下ろしながら士官が司令官、ドルネス・ハウフマン大佐に報告する、ここは前線基地駐留艦隊第二分艦隊ハウフマン巡洋艦部隊旗艦の巡洋艦、マイソールの艦橋だった、司令官席には恰幅の良い、見事なカイゼル髭を口元に蓄えた初老の男が座っている、彼こそがこのハウフマン巡洋艦部隊の司令官、ドルネス・ハウフマン大佐なのだ。

「ん、各砲準備出来次第発砲せよ、トクメルにも撃たせろ、なんとしてもヤツをここで沈める」

「はっ」 

「クックックッ、これでヤツを沈めれば俺は准将、いや、少将に昇進だ、そうすれば、、、」


「クソ!バリアの一部が破られた!エンジン付近に被弾!エンジンエリアで火災発生!」

「スプリクラーは!?」

「展開中!どうするんだ!?このままだとたこ殴りだぞ!」

「後部主砲で二隻沈められないのか?」

「無茶言わないでくれぇっ!?」

再び衝撃が走る。

「また被弾だ!このままだと航行に支障がでるぞ!」

それを受けてなおハルは逡巡しているようだった。

「チャルカ」 

「なに?」

「舌を噛み切るなよ」

「は?ってうわぁ!!」

グンッ!と凄まじい勢いでミライが転回する、艦体の各所がギシギシと音を立てるほどそれは激しく、そして勢いよく敵艦隊方向へと向かい始めた。


「目標、我が艦隊の前方にて回頭!トクメル方向へ突撃してきます!」

「ついに気でも狂ったか、、、?トクメルへ連絡!全砲門を左舷へ」


「チャルカ、そこの敵の艦首付近に火線を集中させてくれ」

「手動照準なんだから無茶言わないでくれよ、、、」

「じゃあ、無理かい?」

「それが出来ちゃってるんだな、これが」

「それでは上部砲塔のみで結構、撃て!」

6基12門分の光の矢は正確にトクメルの艦首を蒸発させた。


「トクメル被弾!艦首部分蒸発!」

「残った艦後部部分が本艦に接近してきます!」

「なに!?」

ハウフマン大佐の心を絶望の黒い染みが浸食していく、しかし、命令を下さなければ自分たちは確実に死ぬのだ、そう思い、精一杯声を押し出す。

「か、、、回避、回避ー!」

「だめです!間に合いません!」

「艦橋に直撃します!」

「なっ!?」

後の記録によると、ハウフマン巡洋艦部隊旗艦マイソールの艦橋要員に1人として生存者はいなかった。


破壊された艦の後部部分がもう一隻の艦橋に直撃し、二隻とも爆散したところを見届けてからハルが口を開いた。

「チャルカ、覚えておきなさい、これが人間同士の戦いだということを、今の光の中に何十人、何百人もの命が有ったことを、そしてそれぞれに家族がいるということを」

その言葉にチャルカはただ静かに頷くだけだった。

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