1話「大陥没」
後に「大陥没」と呼ばれるようになるその現象は余りにも唐突に、そして急激に始まった。
日本の首都、東京、その中心地、千代田区、皇居、その皇居を中心に半径三十キロがドーナツ状に陥没した、否、消滅した、皇居の周り半径数キロを残して。
それからだった、世界の崩壊が始まったのは。地軸は狂い、世界中の主な都市は砂漠に没し、常に食料や水を巡って争いが絶えなくなった。
「そんな時だ、「カミナルモノ」が現れたのは」
奴等は神の慈悲で持って人類を救済した、人々は「カミナルモノ」に恐れおののき、うずたかく積み上げられた人類の叡智はバベルの塔の如く崩れ去った。
しかし同時に人類は「カミナルモノ」に対抗する手段も得た、それが「魔力」、そして「カミナルモノ」由来の技術だ。前者において人類は今まで許されていた以上の力を手にし、後者において物理法則を無視した動きを可能にした。
「カミナルモノ」は神が人類に与えた試練だと論じる者もいれば、神が人類に与えた福音だと論じる者もいた?意見の衝突は争いを生み、「争いの十年」と呼ばれる十年間が始まった、それが終わった後残ったのは崩壊し、世界共通言語に収束された言語体制と幾つかの都市国家、そして全世界合わせて20億人を数えるに留まる人類であった。
「そして「大陥没」から150年、「争いの十年」から122年が経つ、未だに世界は衰退の一途を辿っているといわけだ」
「ふーん」
「、、、君、興味ないだろ」
巨大な構造物を背に二人の人間が話していた、片方は黒髪黒目の青年、もう片方は茶髪に赤目の少年である。
この2人が今後物語を廻していくのだが、この二人ほんの数時間前に出会ったばかりである。