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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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16話「東京の死」

「、、、ル、、、ハル、、、ハル、、、!ハル、、!ハル!!」

「うわぁ!?」

我ながら情けない声が出たものだと思う、目の前の友人は呆れたような顔をして「やっと起きたか」と言っている。

「んー?授業は?」

「もう終わった、それと佐々木先生があとで教員室に来いってさ」

「げ、絶対説教じゃん」

うげーという顔をするハルを横目に「自業自得だよ」というこの友人は鬼なのかもしれない。

「だってなげーじゃん佐々木の説教」

「6限なんだっけ」「現国」そんな会話を交わしながら意味もなく廊下にでる、東京のど真ん中、皇居の真横にあるこの高校は狭い、スペースが無いのか縦に長く、そしてなぜか真ん中が吹き抜けのロの字状をしている、その吹き抜けの一番下にある謎のガラスピラミッドを眺めながらボケーッとするのが彼の休み時間の処理方法だった。

「てかお前寝過ぎだよ、先生三回位起こしてたけどうんともすんとも言わなかったじゃん」

「そもそも昼を食べ終えて一時間たたないうちに授業を受けろなんてどだい無理な話なんだ、特に窓際は」

「お前なぁ、、、」

ジトーっとした目で見られるがハルは至って気にしていないようで大きな欠伸などかましている。

「とりあえず夜ちゃんと寝ろよ、ただでさえせいせ「おい」あ?」

ハルの纏う雰囲気が変わる、警戒しているような、恐怖のような。

「どうしたんだよ?」

「なんか、揺れてないか?」

「は?」

感覚を研ぎ澄ませてみる、確かにユサユサと揺れているような気がする。

「確かに揺れてるような気がするな」

「ああ、しかも大きくなってる」

「え?」

スゴォォォドォォォン!!!爆音と共に凄まじい衝撃が走る、それは地震とは明らかに違う、爆発の際生じる衝撃波のように殴られるような物だった、一瞬をおかず校内を悲鳴が満たす、誰もがパニックに陥り、秩序は綻びを見せていた。「空が!空が!」誰かが叫ぶ、2人は同時に空を見上げ、息をのむ。

「む、紫、、、」

そこに青い空は無かった、青いはずだった空は紫に染まり、最早血すら連想させられる程だった。

「教室に戻ろう」

教室に戻るとそこは混乱と恐怖が支配していた。

「お、おい!あれ!あれみろよ!」

視線が窓の外に向く、そこには

「なん、、、だよ、あれ!」

「キャアアアアアアアアア!!!」

「バケモノ、、、」

皇居の森の中にすっくと立つ首なしのバケモノがいた。

「何だよ、、、あれ」

ハルはただ困惑する事しか出来なかった、しかし、更にショッキングな出来事が彼らを襲う。

「おい!あれ、東京タワーが!」

「何がおきてる!?」

()()()()!東京タワーが()()()()!」

紫の光と共に遠くに見えていた東京タワーや高層ビル群が文字通り沈んでいく、まるで巨大な船が船尾を見せながら垂直に沈んでいくように周りの高層ビル群を伴って東京タワーが、東京の象徴が消えていく、クラスメートたちに異変が起きたのはそのタイミングだった。

「う、うわぁぁぁぁああああ!!!!!」

「朝霞!どうしたんだ!?おい!朝霞!」

「体が、俺の体がぁぁぁ!!!」

「!?」

彼の右腕は石のようにひび割れ、ボロボロと崩壊を始めていた、そして床に落ちた腕の残骸は砕け散り、砂と化した。

「ギャアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

断末魔の悲鳴を残して朝霞の体が砂と消えた。

「朝霞、、、」

「え?ウ、ウソ私も私もぉぉぉぉぉ!!!」

「俺もだ!」

「俺も!」

「イヤ!イヤアアアアアアアア!!!」

クラスメートたちが次々と砂になっていく、最早ハルは声を出すことが出来なかった、そして5分後、校舎は完全な沈黙に包まれていた。

「飯山?高野?笹山?朝霞?」

クラスメートたちの名を呼ぶも砂の山はそれに答えることはなかった。

「なんで、なんで僕だけ死なない?なんで、、、、!?」

突如として呼吸が上手く出来なくなる、彼の体が吸収しているのかそれとも彼の体から発されてるのかはわからないが、凄まじい力が彼の周りで渦巻いていた。

「コヒュー、、、コヒュー、、、」

気管が変な音を立てている。

「チ、、、、クショウ、、、、」

ドカァァァァァァァン!!!!破壊音と共に巨大な手が教室に入ってきて彼の体を持ち上げる。

「な!?」

ソイツはさっき遠目に見た謎の首なしのバケモノだった。

「!?グバッ、ゲホッ、、、グゥゥゥ、、、」

バケモノが手に力を入れる、凄まじい力で体が潰されていく、メキメキメキと体の各所が音を立て、やがてハルの体の中の痛みは飽和した。

「グギィ、、グハッ、、、ガァァァァ、、、!」

右手の感覚が消える、おそらく肩の辺りから胴と分かたれたんだろうが飽和した痛みに腕が取れる痛みが入る隙など無かった。突如としてそのバケモノが投球時のようなポーズを取り、彼の体を放り投げた、勢いよく北の丸公園の広場に体が叩きつけられる、普段はかなりの人がいる北の丸公園にも誰一人として人は居なかった。

「ゲホッ、ゲホッ、ハァ、ハァ、、、」

体が動かず、咳き込んだ途端に赤黒い血が口から噴出する、呼吸ができず、目の前が霞み始め、そして元に戻り始めた。

「!?」

おかしい、痛みが消えている、潰れた肺が治り、粉砕された背骨は再び結合し、スクランブルエッグになったはずの内臓にも異常はなさそうだった、そして何より右腕が再生している。

「なんで、、、」

再びあの力が戻ってくる、今度は体にピッタリと合う、少なくとも身体的な苦痛はない、(イメージしよう、この腕にこの力を流すイメージを)なぜかはわからないがそう思う、そのイメージ通り右腕に力が流れる感覚がする、そして目を開いたとき、右腕は墨のように真っ黒に変色し、手の有ったところには狼の頭のようなものが生えていた。

かのバケモノがこちらに来る、大方仕留めた獲物にとどめを刺すつもりだろう、しかし、自身が獲物になっていることに、そのバケモノは気づいていない、そのバケモノが姿を現した瞬間、ハルは本能のままに右腕を制御し、バケモノの体を足を残して食いちぎっていた。

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