14話「未知との遭遇」
「Hello boy ご機嫌いかが?」
バッと後ろを振り向く、そこには月を背に怪しげな笑みを浮かべた男が立っていた。
「なっ、、、」
「あれー?驚いちゃって声もでない感じ?」
ニヤニヤとしながら近づいてくる男に恐怖を感じながらも覚え立ての特異魔術を使って拳銃を生成する。
「嫌だなー、そんな物騒なモノを持ち出して、俺はただ君と建設的な話がしたいだけなんだぜ?」
わざとらしく驚いたような仕草をしながらそんなことを言う。
「ひ、人の頭をぶっ飛ばした人間が言うことか?え?」
キッと目の前の男を睨む。
「おー怖い、でも君にも有用な話だと思うんだけど」
銃口を男に向ける、感情の起伏が感じられない声で「おー怖い」等とほざきながら男が前進を止める。
「俺にとっても、、、?」
「君、鞍替えをしない?」
「断る」
「即答だねぇ」苦笑いをしながら言う。
「だけどね、君、俺らはこの世界の浄化を目標にしている、なんの目的もなくただカミナルモノを殺戮し続けるガーディアンズなんかにいるよりもよほど生産的だと思わない?」
「やはりレストニア教の回し者か、何度も言うが断る、俺はこの世界が好きだし、そもそも自身を滅ぼしてまで世界の浄化とやらを目指せる程利他的でもない」
「、、、チャルカ君」
「何故俺の名を知っている」
「今はそんな事はどうでもいいんだ」
恐ろしく冷徹な声でピシャリと男が言う。
「君はプラトンを知っているかい?」
「プラトン?」聞いたことも無い名だ。
「古代ローマ、、、ものすごい昔に生きていた哲学者の名前だよ、彼は「イデア論」という理論を打ち立てた」
イデア論、また聞いたこともない単語が出てくる、この男、哲学問答ではぐらかそうとしてるのでは有るまいか、否応なく彼の警戒心は更に持ち上げられることになった。
「プラトンはこのイデア論において、現実世界は完全な世界の影、即ち不完全な世界であると説いた、そして同時にその事に気づいている者はそうでないものをその「気づき」へと導かねばならぬともね、しかし、我々はそれだけではないと思う、つまり気づきへと導くのではなくイデア論の実践、イデア、完全な世界へと導く事、それが我々の目指す世界の浄化だよ」
男が話し終える。
「なるほど」
静かに口を開く。
「それがお前たちの正義か、だが生憎と俺の正義はお前たちの正義と真っ向から対立するものだ、別にお前たちの正義や理想を否定する気は無いが、俺はこの先、死ぬまでお前たちと戦わねばならない」
「成る程、戦わねばならない」
ゆっくりと男が言う。
「じゃあどうする?チャルカ君、交渉は決裂した、君の敵は目の前にいる、今、ここで俺と戦うかい?」
風と共にチャルカの頬の真横を何かが通り過ぎていった、驚いて目を見開く男の首元には帯のような物が突きつけられていた。何者かがチャルカの肩を抱く、そして頭上から聞こえる筈のない声が降ってきた。
「それはこちらの台詞だ、レストニア教の教祖殿」
信じられない思いで頭上を見上げる、そこには
「やってくれたなこの野郎」
見たことも無いほど苦虫を噛み潰したような顔をして目の前の男を睨むハルがいた。




