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第1話 新たなる始まり

プロローグからの続きです。

誰かが俺を呼ぶ声がするような気がする。しかし、薄れゆく意識の中で、それが誰の声なのか、何を言っているのかが分からなかった。あるいは天国や地獄からの使いがやってきて、俺を呼んでいるのかもしれない。そんなことを考え、俺の意識はなくなった。


「あんた!大丈夫なのか!ひどい怪我じゃないか!おい!」


目が覚めると、俺は見知らぬ家のベッドの上で寝ていた。木造で古びた感じのあるその家は、俺に故郷のなつかしさを感じさせた。窓から差し込む太陽の光が眩しい。


「うぐっ!?」


体を起こそうとして、激痛が走る。そして、痛みとともに、今までの出来事が徐々に脳裏に蘇っていった。


「では、勇者殿。さらばだ。」


そうだった。俺は王国の騎士、サルテーネに殺されそうになった。そして…。


サルテーネが剣を振り下ろす直前、俺は一つの事を思い出していた。それは魔王軍との戦いで手に入れた、転移の魔石の事だった。実際に使ったことはなかったが、戦利品としてポケットの中に入れておいたものだ。

俺は魔術にあまり詳しくはなく、その魔石の使い方も分からなかった。だが、もしそれが本当に"転移の魔石"ならば…。


俺は最後の力を振り絞って、俺の持つ全魔力を転移の魔石に込めた。サルテーネの大剣が俺の首を刎ねようと振り下ろされる。刹那、転移の魔石から凄まじい光が放たれた。そこで、記憶は途切れた。


恐らく、転移は成功したのだ。俺はサルテーネに殺されず、なんとかどこかの知らない場所に転移することができた。そうではなければ、ここは天国か地獄ということになるが…。


「お目覚めでございますかな。」


声が聞こえ、部屋の扉が開き、男が入ってくる。歳は50くらいといったところか。多分この家の家主といったところだろう。まずは現状を把握しなければならない。俺はいくつかのことを彼に聞くことにした。


「あんたが、俺を助けてくれたのか?」


「ええ。貴方が村の近くの森で倒れているのを見つけましてな。傷だらけで、今にも死にそうでしたので、すぐに医者を呼んで処置をしてもらったんですよ。医者が言うには、生きているのが不思議なくらいの致命傷だったそうですよ。」


ここが天国でも地獄でもなかったという事実に、俺はひとまず胸をなでおろした。


「そうか。ありがとう。俺は勇者ヴェルナーという者で、魔王討伐隊の一員だ。」


俺が名前を名乗ると、男は目を見開いた。


「なんと。身に着けている装備から、只者ではないと思っていましたが、まさか貴方様があの伝説の勇者とは…。」


男は俺に頭を下げ、一礼する。そして、言葉を続けた。


「貴方達のご活躍がなければ、この村も今頃魔王の軍勢に蹂躙され、焦土と化していたでしょう。何と感謝を申し上げれば良いか…。おっと、申し遅れましたな。私はこのカルナ村の村長をしているハモックという者でございます。」


カルナ村という地名に覚えはなかった。少なくともメロール王国の領内に、そういった地名はなかったはずだ。ならばここは、メロール王国の支配下にはない土地にあるということになる。一体どこの国の領土なのか。俺は目の前にいるハモックに聞いた。


「ハモック。俺は転移の魔法を使い、偶然この村にたどり着いたんだ。この村はどの国の領土なんだ?」


「左様でございましたか。ここはメロール王国の隣国の小国、カルパチナ王国にある小さな村でございます。」


「カルパチナ王国か。来るのは初めてだ。」


カルパチナ王国はメロール王国の10分の1の版図しか持たない小国だった。そして、その土地のほとんどは農村であり、兵隊の数も少なく、戦争とは無縁の平和な国だと聞いていた。実際に行ったことはなかったが、まさかこのような形で訪れることになろうとは思わなかった。


「この村には特に観光するような名所もありませんが、傷が癒えるまでゆっくりしていって下され。貴方が勇者とわかったならば、村の者たちは大騒ぎでしょう。特に若い女などは。うわっはっは。」


ハモックが豪快に笑う。だが俺はとても笑う気分になれなかった。頭の中は、この前の出来事のことでいっぱいだった。


「ありがとう、ハモック。あんたの厚意に甘えさえてもらうよ。俺にはやらなくてはならないことがあるんだが、身体の傷が癒えるまでは、この村で世話になる。」


俺はぎこちない笑顔を作って、ハモックに応える。


「ええ、無理はなさらないほうが宜しいですぞ。何しろ一週間も寝たきりだったのですから。」


「一週間?そうか、俺は一週間もずっと眠っていたのか。」


俺は考える。一週間も寝ていたとすると、サルテーネはすでに王都サダルフォンに戻り、国王に俺が転移で消えたことを報告しているだろう。あの心配性の王のことだ。俺が転移でどこかに消えたとなると、いまごろ血眼になって探しているに違いない。理由はわからないが、国王は俺たち勇者の全員を抹殺する気なのは間違いないからだ。国内にいないとわかれば、隣国にも目を向けるかもしれない。もし、俺を助けてくれた人達の村が襲われたら…。それだけは避けなければならなかった。


「ハモック。俺が眠っている間に、何か世の中で大きく騒ぎになるようなことはなかったか。」


王国の闇討ちによって、勇者たちが殺されたことがもしかすると広まっているかもしれない。そう思って俺はハモックに聞いてみる。ハモックが答える。


「ええ、大きな変化がありましたとも。」


俺は期待して、少し身を乗り出してハモックの次の言葉に耳を傾ける。


「勇者様方の活躍によって魔王の軍勢が壊滅し、世の中は平和になったと思われていました。しかし、突如メロール王国が隣国の国々へと兵を向け、侵攻を開始したのです。」


俺の期待していた答えではなかった。だが、それはそれで驚くべき新たな事実だった。


「何?メロール王国がか?」

「ええ。幸い、このカルパチナ王国にはまだ戦火は及んではいませんが…。」


俺はメロール王国の国王をよく知っている。先王ルーディーンが魔王との戦いで急死してしまったため、息子のジョンがその王位を次いで現在国王をやっている。まだ二十歳そこそこで、決断力に欠け、臆病者であり、正直に言えば王たるに相応しい人間だとは思っていなかった。そんなジョンが戦争を起こすとは、にわかには信じられない。

もしかすると、王国の内部で何かの陰謀が動いているのかもしれない。現王であるジョンは決断力もなく、家臣の言葉に振り回されがちだ。王国内の誰かが、ジョンを操り、王国を良くない方向に動かしているということも十分に考えられる。


メロール王国の家臣団の中で、王国を内部から掌握しそうな人間は―――。

そこから先の思考は、突然の大声で停止した。


「村長!いる!?」


子供が扉を勢いよく開けて家の中に入ってきた。歳は10くらいだろうか。服は汗でぬれてびっしょりになっており、全力疾走でもしてきたのか、息を随分と息を切らしていた。


「トマス、どうしたんだ。そんなに慌てて。」


ハモックがなだめるようにトマスに言う。トマスと呼ばれた少年は早口で答えた。


「さ、さっき村のはずれの森で遊んでたんだけど、その時山賊がやってきて、アーニャとジルがさらわれちゃったんだ!僕はたまたま見つからなかったんだけど、怖くてあいつらが行くまで、ずっと音を立てないように…。」


トマスは今にも泣きそうになりながらもなんとかそれを言い終え、直後、大声で泣きだした。


「な、なんだと!くそ、最近近くの山に賊が住み着いたって話は本当だったのか!」


ハモックの声からは怒りが伝わってきた。拳を握りしめ、歯を剝き出しにしている表情からは悔しさが感じられた。


俺はベッドから立ち上がり、ハモックの肩に手を置いて、言った。


「山賊の住処はわかるか?」


ハモックは驚いて俺のほうを見た。だが、ハモックが何か言う前に、トマスが答えた。


「えっと、村から出て、馬を走らせて30分くらい行ったところに山があって、そこに古城があるんだ。多分そこがあいつらの根城だよ。」


「ありがとう。坊や。」


俺はトマスに礼を言い、部屋を見渡して自分の装備を探した。


「ヴェルナーさん、あんた、その傷で山賊とやり合うつもりなのか?」


ハモックが震え声で俺に言う。恐らく俺の心配をしてくれているのだろう。


「勇者を侮るな、ハモック。山賊如き、この程度の傷はハンデにもならない。それに命の恩人であるこの村の危機を救えずして何が勇者だ。俺が必ず子供たちを連れ戻す。あんたは夕飯の支度でもしておいてくれ。」


俺は一方的にそう言うと、自分の鎧を包帯の上から装備した。身体を動かす度に身体中の傷が痛んだが、今はその痛みを忘れるようにした。


俺は村の人間から適当に一頭の馬を借り、一直線に古城を目指した。メロール王国の事は、一先ず頭の片隅に追いやっていた。

次話から戦闘シーンをたくさん入れて盛り上げていきたいと思っています。気軽に感想などいただければうれしいです^^

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