主人公A組視点第六話 神経衰弱で手品使われた気分だよ。 by大田原 元春
6月9日 正午 名古屋市 能力犯罪対策課
病院からそのまま戻ったつかさは、急いで先ほどの情報を上司に伝える。本当は電話で連絡したかったが、この情報は漏洩させる訳にはいかない。
「大田原係長、葵ちゃんから目撃情報がありました。」
大田原は手に持ったハンバーガーを置くとつかさの方を向き、ため息をついて報告を聞く
「はぁ、つかさ君こっち今お昼食べてるんだけど」
「係長のお昼なんかよりも重要な情報があります」
なぜこの部下は上司に対して容赦ないのだろうか、心当たりはあるが言葉に出したら碌なことにならなさそうだ。
「それで、何見たの?結城君の事だから電話で報告しそうなもんだけど」
普段のつかさならば、病院から電話で報告するか葵と共に昼を食べた後に帰還して報告するだろう。それをしないという事は
「ヤバい情報?」
「ヤバいです、もしかしたら公安に動いてもらうレベルです」
公安が出てくるとは驚きでだ、もしかしたら組対と連携が必要かと考えたが、どうやらそれよりも数段階マズいらしい。
「公安って……一応聞くけど、葵ちゃんが吹っ飛ばされるような相手だからって理由じゃないよね?」
「違います。解ってて聞いてません?」
解ってるけど、認めたくない現実というものがある。今回はその類だろう。いくらこの部下でも流石にそんな事で公安の名前は出さない。
「それで?情報って?」
「葵ちゃんを吹っ飛ばした相手ですけど。滝川 瀬奈ちゃんだそうです」
その名前を聞いた時、思考が予想の外から殴られた。何故その名前がそこから出てくる?というか、あの惨状を作ったのが滝川 瀬奈?ありえない
「いや、ありえないでしょ。流石に見間違いだって」
「一応確認したんですが、間違いないそうです。写真を見せた時点で反応があったので誘導でもないです。」
「双子の方の滝川 佐奈の方は?」
「見せたのは瀬奈ちゃんの方だけです。」
大田原の表情が流石に真面目になった。この情報はありえない。しかし間違っていると言い切れる証拠はない。もし、この情報が正しいとしたら大変なことになる。
「葵ちゃん、退院いつだっけ?」
「今日の15時です。家に帰らせるまでにこちらに寄らせます」
「お願い、こっちは尋問室抑えとくから」
短いやり取りだが、こちらの言いたい事を先に理解してくれる。この部下は上司を敬う気は無いが、それが許される程度には優秀だった。
6月9日15時 名古屋市 大学病院
受付で退院手続きを済まし、大学病院を後にする。体はまだ痛むが、朝よりかは大分ましだ。
「葵ちゃん、行きますよー」
迎えに来た担当の元に向かい、車に乗る。車を運転するつかさの顔は珍しく真剣だ。
「どうしたの葵ちゃん?何か忘れた?」
「いや、珍しく笑って無いなーって思いまして」
「あら、そうだった?」
そんな事を言って表情を整える。どうやら、何かあったらしい。事件の調査に進捗があったのだろうか?
「葵ちゃん、先に警察署に寄っていくわね」
「解りました。えーと、新情報ですか?」
そこで、つかさは黙った。葵には何故ここで黙るかわからなかったが、話そうとしない物を無理に聞く訳にはいかない。
葵は黙って警察署に向かった。
対策課に到着するとすぐに大田原係長が出迎えてくれた。この係長がここまで真剣な表情なのは珍しい。
「葵ちゃん、退院おめでとう。すぐに話があるから、尋問室に来て」
尋問室に連れてかれるとは思わなかった、つかさの方を見てみると真剣な表情で尋問室への案内をしている。
尋問室に到着し椅子に座る。目の前には大田原係長、その横には結城 つかさが陣取っている。その真剣な表情に何か悪いことをしたような気さえしてくる。
「葵ちゃん、正直に答えてほしいんだけど。君が見たのは本当にこの子なんだね?」
そういって係長は写真を見せてくる。今朝つかさから見せられた写真だ。見間違いは無い
「間違いないです。」すぐに断言できるほどに、明確に顔を見た相手だ。
間違いないと断言された大田原は天を見上げた。
「ありえない現実でも、否定する材料が無いのがねぇ」
そんなつぶやきが尋問室に木霊した。
ありえない、ありえない言ってたら一話終わりました。 でも、これ登場人物側からしたら本当にありえない情報なんです。次話に説明します