プロローグ 主人公B組視点
これは夢なのだろう、忘れる事のできない過去だ、周りを見渡すと見慣れた顔と懐かしい面影を見つけた
血にまみれた部屋の中、少女は倒れた女の側で泣いていた、昔の自分と生きていた頃の母だ。
『お母さん、待って、生きて、死なないで』
『誰か、お母さんを助けて』
少女の母の胸から血は絶える事無くあふれ出し、溢れた血は周りを染めた。誰が見ても手遅れだと判断できる状態である事は間違いない
母に駆け寄る少女の左手には刀身が赤黒く染まった刀が握られていた。それはこの状況が少女によって作られた事を示していた。
あぁ、この夢はいつも此処から始まる、もう少し前から始まってくれれば救われるのに、この後の言葉はいつも同じだ
今にも息絶えそうな母が笑いながら話すんだ。
『美汐、あなたは悪くない』
そうだ、いつも許すんだ。罵ってくれれば救いもあるのに。そして、昔の私泣きながら謝るんだ
『ごめんなさい、こんなつもりじゃなくて、許して』
その言葉を最後に、少女の意識は現実へと連れ戻された
6月8日 午後6時 名古屋市
雨が降る音の中で少女は目を覚ました、目覚めは最悪だがこの夢だけは忘れてはいけない。
周囲を見渡すと、薙刀に竹刀に樫の棒など多くの武器が目に入る。どうやら自分の道場のようだ。
レポートの途中で寝たのかちゃぶ台に突っ伏し体をひねるという器用なのかわからない体制から起き上がる。変な体制で寝たせいで体が痛む、伸びをしながら時計を見る。
「6時か、夕飯準備しないと。」
夜ごはんの準備をしようと、台所に向かい冷蔵庫のドアを開ける。中身は十分入っていたが
「醤油が無いか、この雨の中醤油だけ買いに行くのもなぁ」
ぼやきながら外を見る、外の雨は少し前に見たときに比べ激しくなっていた、しかし無いものは買いに行かねばならない。
シューズをはいて傘をさし、道場の入り口から外に出る。入口の石段は雨に濡れて今にも滑りそうだ。
滑りそうな石段を傘を差しながら降りる。こんな天気だどうせ誰も来ないだろうと鼻歌で下がった気分を上げていると
「助けて」 どこからか声がした、気のせいかと思えるほど小さい声だが確かに聞こえた
「誰だ!何処にいる!」 相手が何処にいるかわからない、大声で叫びながら石段の周りを散策していると
「助けて!」
今度は確かに聞こえた。傘を閉じ雨に打たれながらも藪の中の声の主を探す、するとそこには1匹の狐が倒れていた。
その狐は、目に見えるほど弱っているが微かに息をしていた。そして狐は小さく助けてと言いながらゆっくりと弱っていくのが目に見えた。
美汐にはその弱っていく姿が夢に見た母と重なりすぐに抱きかかえた。美汐は雨に打たれ体が冷たくなった狐をかかえながら、取って返したように家に戻った。
家に戻った美汐は狐の状態を確認した。狐の体は冷え切っているが傷は無かったので、雨に打たれて体が冷えて力尽きたのだろうとあたりをを付けた。
「狐の薬なんて家にはないが、傷は無いしとりあえず体を温めていればいいか」
適当な判断だが現状それ以外に打てる手はない、そもそも人の言葉をしゃべる狐など初めて見る。しかし美汐にはこの狐が人である確信があった
狐の右前足には青いリングがはめられていた。自分と同じ能力者である事を示すリングだ
「青いリングか、もしこの狐が美鐘の関係者であるならもしかしたらとも思うが」
そう呟きながら自分の指についた青い指輪を見る。自分以外にこの青のリングを持つ者は親友である幼馴染と行方不明になった親友の姉だけだ。
もしこの狐が行方不明になった親友の関係者ならば新たな手がかりができることになる。
助けようとした癖に見返りを求める自分にため息をつきながら美汐は夕飯の準備を始める。
醤油は無いがこれから買いに行く時間はない。どうせ狐に濃い味のものは厳禁だろう。
6月9日 午前8時
目を覚ましたら、見知らぬ場所にいた。天井が見えるからどこかの家の中なのだろう
「ここ何処?」 思わず疑問が口から出る
周りを見ると、大きな部屋の壁に剣道に使う竹刀やゲームで出てきた武器(薙刀っていったっけ)やよくわからない木の棒が掛けられていた
私はその部屋の中の洗濯籠の中に毛布と共に入れられていた。
洗濯籠から出て部屋の中を見渡していると。後ろから声をかけられた
「起きたのか、かなり弱っていたと思うんだが、意外と回復速いんだな」
恐る恐る、声の方をむいてみると、そこには初めて見る女の人がいた。
食事中であったのだろう、その女の人はちゃぶ台で卵焼きを食べながらこちらの様子を観察するように話しかけてきた
「昨日の事は覚えているか?」
昨日の事といわれても解らない、私の最後の記憶は狐になって雨の中を走って逃げ回った記憶で終わっている。
戸惑っている私を見て察したのだろう、女の人が私に教えてくれた
「お前は昨日家の藪の中で倒れていた、それを私が見つけて家に連れ帰った。洗濯籠に入れていたのは勘弁してくれ、それ以外に良い箱が無かったんだ」
この女の人が私を助けてくれたらしい、口調は少し怖いが優しい人のようだ。ふと私を拾った時に周りに誰か居たかを聞いてみる。
「あの、私を見つけた時、周りに誰か居ませんでしたか?」
「誰もいなかったが、どうした?」
どうやら誰もいなかったようだ、女の人は先ほどの質問で察したらしく、食器を置いて私の側により話しかけてきた
「誰に追われている?」
「わかりません、前住んでいたところはよく分からない人達に見張られていて、助けてくれた人がいて住んでたとこから逃げて」
つまりながら、私が逃げた時の事を話していると女の人が私を膝の上にのせて頭を撫でてくれた
そして私の目から涙が流れ始めた、知らない人の前で泣く事は良くないと思っていても、どうしても涙を止められなくて私はただ泣き続けた。
どれだけ泣いていたかは解らないけど、お姉さんはずっと私を抱きしめてくれた。
その後、尻尾を揺らしながら助けた時の状況を聞いていると、女の人から腕に付けられた青いリングについて聞かれた
「お前を助けた時に状況は以上だ、話は変わるが。お前のそのリングどうしたんだ?」
お姉さんはこのリングに興味があるらしい、私自身このリングについては何も知らないけれど普通のリングじゃない事は分かる。
「私を助けてくれた人がくれたんです、これを付けたら能力に目覚めたんですよ。
元々、私は能力が無かった、お母さんに欲しいと願っても、お母さんも研究中なのって返されて目覚めなかった
それなのにこのリングを付けたとたん能力に目覚めて狐になれた、小さくなったおかげで路地に逃げる事が出来た。
その話を聞くとお姉さんは「助けてくれた人はどんな人だった?」と聞いてきた
「よく覚えてないけど女の人と男の人だった、女の人はお姉さんより背が小さくて細身の人だった、男の人はたぶんお姉さんよりも年上で背が高くてかっこいい人だった。
このリングはその女の人からもらったの」
記憶の中の2人の姿を思い出しながら話す。お姉さんはそれを聞いて「2人組で片方は女」とつぶやきながら考え事をしていた。
お姉さんは考え事を辞めて立ち上がり私に言った
「とりあえず、追われている内は此処にいるといい、こう見えて私はかなり強い」
かなり強いという言葉を聞いてつい私の口から
「お願いします、お母さんを助けて」と自分でも驚くほど大きな声で懇願した
いくら優しくて強い人だとしても、知らない人危険に巻き込むような事をお願いした自分に後悔しながらお姉さんの方を見ると、おねえさんは笑顔を引っ込めて
「流石に、それはずるい。そういわれたら助けない訳にはいかない」と言いながら私を抱きしめてくれた。
「お母さんを助けて」
昔、幼い私が放ったセリフ。この狐が夢の中の自分自身と重なった
もしあの時今の自分が側にいればといつも考えた。もしあの時の自分がもっと頭がよかったらといつも考えた。もしあの時に母を救えたらと考えた
そんな自分がこのセリフを言われて見捨てることが出来るものか
「流石に、それはずるい。そう言われたら助けない訳にはいかない」
口から出た言葉は自身に対する誓いだった。
「そういえば、人に戻らないのか?」
「あの、初めて能力を使って……戻り方がわかりません」
どうやら、この狐用の寝床を整えなければならないようだ…
主人公B組のプロローグです
次の話からA組に戻りますが、その前にA組のプロローグを書き直します