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出会いその2

本日、19時~20時頃もう一話投稿します。


「開けるわよ」

「うん」



 ナナは小皿に乗せられていたおたまを手に取り、香りの元、鍋の蓋に手をかけている。持ち上げれば室内を満たしているであろうこの芳香を肺一杯に吸引できる。ついにやけてしまう。これだけの香りだ。味にも大変期待できる。いったいどれほどのものだろうか、楽しみすぎる。


 はやる気持ちを抑きれず、まるで宝物を覗く少年、目を輝かせ蓋を取る。


 途端に湯気が上がる。



「「ふぅぁ~~」」



 期待を大きく上回ったときは興奮する。しかし、感動が上回る場合もある。今回は後者だ。

 蓋を開けると唾液を分泌させる湯気とともに現れた黄金色の液体。透明度が高く透き通っておりスープの具が視認できる。とても綺麗だった。食べ物に使う感想として適切かはわからないが素直に出た感想だった。


 生唾を飲み込み、おたまを鍋に入れ、ひとまわし。沢山の素材が泳ぎだした。葉物野菜、根菜、きのこ類、お肉、豆腐、黄金色のキャンパスを彩っている。胃が口内が早くよこせと催促してくる。



「先にいただくわ」



 我慢できずにお玉で掬いあげたスープを口にする。



「……」



 お、おいしいい!ゆっくりと鼻から息を吐いた。体から力が抜けていく。

 まず口内においしいが隙間なくいっぱいに広がった。あったかい優しい味だ。冷えた体に染み渡る。

 香りもすごい。鼻から抜けて体中が包まれてるみたいだ。幸福感で満たされる。夢見心地ってやつだろうか。しばらく浸っていたい。



 ナナは本能で感じ取った。

 自分の知らない技術技法、そして料理人の心が込められた未知の料理だと。



 うまい汁ものと言えばシチューだ。ミルクをベースに複数の素材をどろどろになるまで煮込む。素材がルーになるわけだから溶け込んだ素材が増えるほどうまい。味に深みが増していく。


 それに対しこのスープうまいが何かが違う。なんというかシンプルなのだ。深みのある味だが何かが違う。素材を煮込めばスープは濁りとろみがつく、それがおいしさの元のはず。だがこのスープは、透き通っていて水を思わせるのど越し、なのに深みのある味がするのはなぜ。わからない。



 ナナは答えにたどり着けないだろう。それは、


 ナナのいた世界には、だしを取るという概念がないからだ。

 つまり日本食に欠かせない旨みのもとだし汁、

 食を追及してきた彼女にとって初体験であり衝撃的な味蕾への刺激だった。




 っど、重量のあるものが下腹部にのしかかった。視線を下ろすとシロエが股座に顔をうずめ身動き一つしていない。手にはお玉が握られていた。

 呆けていたナナは気が付いた。自分が床に尻をついていたことに、四肢に力が入らないことに。

 

 原因は間違いなくあのスープを口にしたためだ。おたまを手にしているシロエも口にしたはずだ。毒が混入し体に自由が利かないわけではない。単純な話、スープの味に体が、心が、感動しもっと余韻に浸りたいと、何もさせるなと訴えているのだ。

 

 うまいものは今まで数え切れないほど口にした。だが一口でここまで心を体をつかまれはしなかった。こんな経験は初めてだ。

 

 こんな料理を作れるなんて調理者は何者なのだろうか?とても同じ人間が作った料理とは思えない。恐れ多くも神が食する御食みけを口にしてしまったのかもしれない。


 頭が回っていないのかナナは正常な思考ができていなかった。



「あ〝の〝こ〝ろ〝ぉ〝は、はぁ!ん〝あ〝ぁ〝あ〝~〝あ〝ぁ」



 室内にだれか侵入してきた。男の声だ。この部屋の住人だろうか?



「ん、なんか、臭い」



 臭いですって、レディーに対して失礼な!確かに1週間程湯浴みをしていないけれども、いくらシロエでも怒るわよ!


 決して自身が臭いと男が口にしたとは思わない、心だけは強気な姿勢をナナはとる。



「無事か、俺のメシ!」



 無事か、俺のメシ?ってことは。あなたが作ったの?この料理を、あなたは何者なの?

 軋む床、男が足を踏み出した。ナナの目にその姿が映る。



「ん?」



 やや筋肉質な色白な男性。170㎝程の身長だろうか、シロエより低いだろう。顔に特徴はなくイケメンでもなくブサイクでもない。この料理を作った男でないならば恥部をタオルで隠したまま私たちの前に立ち尽くすなど万死に値する。


 ナナの思考は過激だった。



「あ〝あ〝ぁー、俺の鍋が!」



 !、やっぱりあなたが作ったのね。レシピは!他の料理は!あなたの名前は!何者なの!頭の中で言葉がおどる。しかし、最初に口に出た言葉は、



 「「あ、あ、あなたが神?」」



 偶然か必然か、ナナとシロエはそう口にした。


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