簡易テントの中は
場面は戻り真の部屋、薄暗いコタツの中にて、
発熱するヒータの下、カーペットの敷かれた床の中央、
握りこぶし大の穴が開いた。その真っ暗な底の見えない穴から、
にゅるりと、押し出されたところてん思わせる登場をする二人がいた。
「ここは、どこかしら?」
無人のはずの室内、コタツの裾が揺れる。唯一の住人、真不在の室内に人が現れた。
ナナの記憶にある簡易テントの内部とは違う、わずかにあった疑念、ひとまずはパチモノではなかった点に安堵した。しかし狭い。何なのだこの空間は、メシはどこにあるというのか。
背中越しに熱を感じる、温かい。湿った体を周囲の布がなでる、心地よい。
頭上ではヒーターがわずかな作動音を立てている。
「この密室、あったかいわね」
「せ、狭いよ~ななちゃん~」
両者感想を口にし、行動を開始した。
もみくちゃな2人は前方にある、光が漏れる布をめくると、
見たこともない内装が目に映る。
小柄なナナは這い出た。
「まってななちゃん~おいてがないで~」
大柄なシロエは手足頭だけコタツからだし亀スタイルでもたつきコタツに囚われている。
「なんなのこの部屋は?」
動揺のあまり回答者のいない疑問が口に出る。
狭い室内は物であふれ、そのどれもが見たことない造形であり、素材だった。好奇心がくすぐられる。
一歩踏み出す。足元、床も素材が分からない。しゃがみ込み押したり嗅いだりした。木材は使っていない、鉱物の類ではない、草を編んだものだろうか?床一つとってこれだ、おもしろい。ナナは興味深げに室内を物色しだした。
「まって、ななちゃんばっかずるいよ~」
鎧と盾がコタツの足の間に引っかかり出れず、シロエはぐずりつつコタツを引きずり移動した。
シロエも冒険者、未知の発見に心が躍らないはずはない。今すぐにでも家探ししたいのだ。
「すごいわ!シロエ見て、シロエ!」
リモコンをいじっていたナナが偶然電源ボタンを押しテレビをつけた。バラエティー番組が映されている。
「この薄いの、魔法もなしに映像を映し出したわ!」
「どこどこ、見れないよ~」
興奮を隠さないナナに触発されシロエもその映像が見たい。しかしテレビを見るためには別の足の間から顔を出す必要があった。方向が悪かったのだ。
「うう~、これじゃま!」
シロエは腕立ての要領で腰を上げ起き上がった。
コタツがひっくり返り、テーブルの上の物が散乱する。
かまわず二人は手当たり次第に物を手に取りしげしげ眺め、放る。
2人の価値基準で金目になりそうなものはくすねる。
その姿は盗賊そのものだった。
室内は瞬く間に荒れ果て酷いありさまだ。
真が入浴後どんなリアクションを取るのか、そしてその心情ははかり知れない。
「さて、こんなもんかしらね?」
「そうだね、ななちゃん」
暴虐の限りを尽くした二人は、いまだ手つかずの地帯に目を向けた。台所だ。
「これだけ暴れ回って反応がないってことは無人よね?」
「そうだね、ななちゃん」
コタツから顔を出した時から気付いていた。室内を満たす芳醇な香りとその出所。
「誰もいないってことわよ、あのいい匂いのご馳走は私たちの物よね?」
「そうだね、ななちゃん」
油断のなかった二人は、道化を演じお宝を手に入れる障害になりうる部屋の住人を消すためにひと芝居打っていた。もちろん、周囲の物品への興味も嘘ではないが。
「行くわよ準備はいいわね」
うなずくシロエとともに台所、コンロに鎮座した鍋へと向かった。
明日投稿話にてようやく三人が出会います(三人の絡みがあるとは限りませんが)。
この場を借りまして作者から一言、
ブックマークに評価ありがとうございます。モチベアップにつながり作者感激です。
また、目を通してくださっている皆さまにも感謝を。
サイト批判ではありませんがブックマークにはサイト登録が必要なので、”バフめし”このタイトルを覚えて頂いて、再び皆さまの目に触れる機会となればうれしく思います。
ではでは~