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マジックスライム


 スライム、この単語にRPG序盤に登場するキュートな造形の雑魚モンスターを連想する者が多いだろう。しかし、その程度のモンスターが現れて騒ぎにならないし、そもそもメロのモンスター避けが低級モンスターの侵入を許さない。つまりスライムは弱いモンスターではないのだ。



 現場に向かう途中ナナ達や実物を見た連絡役の冒険者が言うには、スライムは物理攻撃が効かないそうだ。脳筋お断り、討伐には魔法が必須、だが人を襲ってくるタイプのモンスターではないので放置が基本。だが今回は“マジック”スライム、スライムの特性プラスαの性能に人に害を及ぼす強力なモンスターらしい。物理耐性に加え名前道理魔法耐性もあるらしく討伐困難、触らぬ神に祟りなし状態、出会っても放置が基本、そんなモンスターが村に現われれば、お帰り頂くしかないわけで…。



「え?なに、これ?」



 マジックスライムが村民冒険者問わず襲っている現場、出店並ぶ、仲見世なかみせ通り、出店と呼び込み、様々な食品から上がる芳香に人々の活気あふれる通りのはずが様変わりしていた。


「っう、ああぁ~」今まさに襲われている男性、無人の出店と盾持つ冒険者が囲っているが効果なし、あちこちに人が倒れている。冒険者たちは手出しできず歯痒そうに眺めるのみだった。スライムは液状、いやゼリー状か、不定形の透き通るラムネ色、顔以外はすっぽり包まれ脈動する水にいたぶられる男性、直立姿勢のまま地から足を離しスライム体内で弄ばれている。パッと見スライムに取り込まれ命の危機、



「っはうあぁ~」頬を染め絶叫を上げる男性、痛みや苦しみに顔が歪み紅潮、苦しみに耐え助けを求める絶叫、こう受けとれればどれだけ良かっただろう。だがそうは見えなかった、だって、あのおっさん明らか喜んでるんだもの。


 マジックスライムについて道中受けた説明、彼らの栄養源は魔力、人間、モンスター問わず魔力ある物に取りつき吸い出す。その際発生するのは快楽、それも極上のものだとか。苦痛もなく魔力も吸いきらず、微量残すので命の心配はない。ただ依存性が高く、襲われたいリピーターが多発するとか、…なに言ってんの?冗談みたいな説明だったが現場を見ると頷かざる得なかった。


 苦しみの絶叫改め紅潮し、震える全身から放つ歓声、おっさんの声高〈こわだか〉らかな喘ぎなど耳に入れたくもなかった。地に伏す者たちも痙攣するもの、動かぬ体に鞭を打ち這ってでもスライムに向かおうとする者、マジックスライムについて無知なら彼らを勇敢な犠牲者に見えたが、今は快楽落ちした被害者にしか映らない。



「仕事の時間よ!行きなさい、真!」

「え!やだよ!」



 やはり何かが違う、先日の“パン☆ケーキ”の件でも感じたこれじゃない感に、悲惨な現場にドン引きする真を小突き行けと命令するナナ、当たり前な反応を返す真。「あふん」吸われ切ったのか囚われたおっさんが解放される。まるで腹ごなしの運動、その場にとどまり脈動を続けるスライム、新たな獲物を求めほどなくして動き出しそうだ。



「何?あんた女を行かせる気!信じらんないわね!」

「は!何言ってんの!」



 ナナの言に周囲に残る者たちの鋭い視線が真を射る、もちろんシロエとモニカもだ。お前が行くんだろ?強力な同調圧力、理不尽すぎる。マジックスライムは魔力量が多いほど影響が大きい、つまりEの俺は被害軽微、加えて村内には俺含めEはシロエとモニカの3人しかおらず紳士を気取った村の奴らは俺に行けという。魔力量Eって逆に貴重じゃね?とか思いつつ見回しても被害者は男性しかいない事実、男女平等主義を掲げる真だが、仲間に押し付ける感性の持ち主ではない。



「俺が行けばいいんだろ!分かってるよ!」



 若干切れ気味に言葉を発し、盾部隊が空けた道を通り真直ぐスライムに向かう真。その歩みはやれやれ系主人公に似たどこか達観した面持ちを携えていた。



 表情崩さず真は思う。とは言ったものの…、実質戦闘力ゼロ、武器も魔法も使えない、村民以下の実力者の真、策などあるはずもなくただスライムに歩み寄っていく。自らの体を餌にする為に。いわゆる一つのあきらめの境地に至っていた。



「がんばれ~」「やれ~」「いいな~」ギャラリーが口々にヤジを飛ばす、今「いいな~」って言ったやつマジで変わってくれ、衆人環視の中さっきのおっさんの二の舞は俺の心が羞恥に砕けてしまう。一歩二歩スライムに近づく、時間は待ってはくれない。



 不定形のスライムは真の到着を今か今かと待ち受ける、触手のように複数の腕を生やしキャッチ、抱き留める、170㎝はある真を正面からすっぽり体内に取り込んでいく。その間、「ちょ!あ!そ!」謎の雄叫びを上げ抵抗を試みた真だが無意味に終わる。


 息ができない、苦しい、殺される、話と違う!取り込まれた真は昔プールでおぼれた記憶を連想させる状況に焦りを隠せない。もがけども、もがけども、苦しくなるだけ。酸素がない、呼吸ができない。数秒が数十秒に、時間間隔が狂う。


 水とは違う、似て非なる生物?なスライム体内。とろみがあり弾力もある、液体のようでどこか固体を思わせる芯がある、水ではないのでもがいても水面に達せず、現在位置に固定される。目を見開いていてもみず、鼻腔に入り込むスライムは、おぼれた時特有のあの苦しさはなく、単純に呼吸のみを阻害する。口を開けようものなら体内まで余さず蹂躙されそうだ。


 てか、これ、スライムに犯されているのと変わりなくね?万が一があってからでは遅い、尻穴に力を入れ処女を守る死にかけの真。



 ”触手凌辱プレイはフィクションであるべき”



 一節では死に直面すると生殖能力が一時的に上昇する、食欲優先の真も例外ではないらしい。数々のHな作品の被害者たちは作者という創造主により弄ばれ好き放題されているが、俺は違う!俺の初めての相手は自分で決める!新たな持論の誕生であった。


 酸素不足の回らない頭が迷走し、暴れる体。なおももがくが結果は変わらず。しかしすぐに頭だけ外に出された。実際は十秒に満たない数瞬すうしゅんの出来事。



「真~、大丈夫~」

「あんたがやられたら次はあたいらの番になるんだよ。わかってるね!」

「ですです~」



 排出された真に酸素と共に身内のはずの仲間たちから、声援ではなく罵声が届く。全力で吠えるモニカ、同調するシロエ。


 大きく息を吸い込み、キレてはいけない、仲間を同じ目に合わせるのか真!気を落ちつけようと努めるも…、次があれば是非とも変わっていただきたいものだ、正直な心情を吐露する真であった。


 ナナは心配など皆無、流れで安否を気遣う言葉をかけるが全く感情がこもっていない。魔力量Eでない彼女にはどこか他人事なのだろう、是非とも変わっていただきたい、そして痴態を演じて頂きたいものだ。この場にいないメロが恋しい、彼女なら「お兄ちゃんがんばって~」と手でも振ってくれただろうに。


 命の危機が去ったとはいえ意外に余裕な思考の真、もがいても無意味と実感できたので体の力を抜き脱力している。するとわかることもある、このスライムには狂暴性、いや攻撃性か、とにかく危害を加える気概はなさそうだ。それどころか丁重におもてなしされているかの如く、心地よい。


 ひんやり、ぬめっと、もちっとし、液体ではないので濡れず、流動する体内が全身をマッサージしてくれている。これは極上サービス、とても気持ちいい、いつまでもやって貰いたい、中毒者続出なのも理解できる。


 だがこいつにとってこれは食事、魔力を吸うための行為に等しい。吸われている実感はない、ただただ、



「ん〝ん〝あ〝あ〝~、気〝持〝ち〝ぃ~」



 小説にある言葉に濁点をつける言葉、こういう時に使うべきだな。温泉以上のリラックスゼ―ション効果、あまりの快感につい声が漏れる出る真。



「「「うわ!キモ!」」」



 仲間の、そしてギャラリーたちの心無い罵倒も耳には入らず、真は満喫していた。


 対象を殺さず生かし、また吸われたいと感情を芽生えさせるおもてなし。いきなりで慌てたが、体内に取り込まれる時も、呼吸を確保してもらった時も、今思えば丁寧で優しさすら感じた。俺が抵抗したせいで手荒く感じたがこいつはそんなつもりはなかったのだろう。


 こいつなりの食事、その流儀。考えるまでもなく、ご馳走を前に荒事を持ち込むはずがない。食われる立場でこの思考はどうかと思うがな。


 快感に浸る体、鼻歌でも奏でたい気分だ。性的快楽を予想していただけに健全なサービス提供に気が緩む。スライムに捕食されている現実には変わりはないのだが。



「ところで俺いつまでこのままなの~」

「もうしばらく楽しんでなさい~」



 真の当然の疑問に安全圏から答えるナナ。ギャララリーたちもどこか落ち着きを取り戻しだしていた、解決した訳でもないというのに。



「しばらくほっとけば大人しくなるでしょ」

「やっぱり真は便利だね、ななちゃん」



 そんな人ごみで、ナナとシロエの会話に自身も人のこと言えないが真の扱いは雑すぎるな、と思うモニカであった。



「流石真殿だ!皆!後は彼ら〈グルメ〉に任せるとしようじゃないか!」



 緩む空気感の中、いつからいたのか支部長の一声で「おつかれした~」でも言うように帰路につく冒険者たち、営業の再会準備に入る出店関係者。人が減ったのを確認し、「ナナ殿、後の処理はお任せしても?」「構わないわよ、ただ、ねぇ~?」、ナナのもとに近寄り耳元で小声で告げる支部長に分かってるわよね?と、ゼニを要求するハンドシグナルを送るナナ。


 その後もわちゃわちゃしていたが、スライムプレイ放置を食らう真の耳には入るはずもなく、活気を取り戻しつつある出店通りでオブジェと化した彼は、人の世の無常について考察するのだった。


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