幕間~真のエプロンアーマー~
辺境の村到着前のある日のことだ。
「冒険にジャージで挑むのってなんか違くね?」
「うっさいわね、私なんて恥部と胸以外もろだしよ!あんたの方が防具性能高いじゃない」
グロウブにブーツ、下着鎧のみの肌色成分多めなナナ、暖かい気候の草原だが風にさらされお腹が冷えそうだ。確かにジャージでも彼女よりは防御力に快適性は高いだろう、でもそう言うんじゃなくてさ…。
「いやー、なんつうかさ、モンスターがでるファンタジー世界な訳じゃん、それにジャージって世界観があれじゃない」
「誰も気にしないわよ、あんたが全裸で出歩こうといっこうに構わないわ」
「いや!それは構えよ!捕まるぞ俺!」
「ふふ、冗談よ」「裸で歩くの気持ちいいですよ」、俺の切り返しに反応する二人、シロエの言葉こそ冗談と受け取ろう、追及するべきでないと俺の勘が告げている。
「でも確かにそうね、これとか着てみる?」
パンツ鎧からだされたのはとんがり帽子にマント、ワンピース、ナナ用なのかSサイズの魔女コスセットだ、杖があれば完璧だったろう。
「それ着た俺、見たいの?」
「勘弁ね、私の魔力ブースト装備が台無しになっちゃう」
ならなぜだした、真の無言の視線を受けるナナ。からかいすぎたかしらと、笑って誤魔化した。
「ななちゃん、予備の全身鎧なら貸してもいいよ」
「優しいシロエに感謝しなさい、防具貸してくれるって」
シロエの善意で現れた鉄の塊、本当にどうなってんだあの下着、なんでも入るの?てか何㎏あんのこれ、サイズは大丈夫そう、でも多分着けては歩けないぞ。
「これ、何㎏?」「20㎏はありますかね」、無理だ、つける前からわかる、装備品に潰される。あれだな、RPGでレベル制限ある装備品にケチ付けてたけど正しいなあれ、真は感じ取った。身の丈にあったもんしか装備できない現実がここにあると。
「ごめん無理、やっぱジャージでいいわ、俺にはジャージが身の丈にあってるよ」
どこか寂しそうに呟く真、しょうがないわね全く、どこか気遣わしげなナナ。
「いいわ、今夜あんたの部屋で何か作ってげる」
「本当か!サンキュ、ナナ!」
現金なものて一言で元気になった真、足取りが軽い、「良かったですね真、ななちゃんならいいもの作ってくれますよ」、ハードルをあげるシロエ。私は冒険者であって鍛冶師ではない、だがあてはある、用は軽くて丈夫ならいいわけだ、素材は余るほどある、後はもとにするものだ。
あの様子ではジャージに付けても喜ばないだろう、そもそも上下にぎっしり付けては重量が結構出てしまう。うーん、何かそれっぽくなるいい服ないかしら。
そんな会話をしつつその日の村への進行は日が暮れだした頃終わりを迎えた。
「あ!それよそれ!脱ぎなさい!」
「離せよ!何すんだナナ!男を剥く趣味に目覚めたのか!」
夕食の準備する真、彼が身に付けるエプロンに目をつけたナナ、あれならちょうど良い、上半身から膝あたりまで守れる、守れる範囲も素材の量も程よく、真の身の丈にあった防具が作れそうだ。
「ああー」「なに女の子座りしてるのあんた」、剥ぎ取り完了後くずおれる真、仕草が乙女でいちいちキモい、やる気が削がれる。
「昼間あんたの防具作るって言ったでしょ、このエプロンでやったげる」
「ああ、そういうこと、頼むわ」
アホなやり取りをする真とナナ、シロエはコタツで寝転がりテレビ鑑賞に精をだし無関心を決め込んでいた。
「エプロンで防具どうやって作るの」「これを使うのよ」、パンツ鎧から赤褐色の長いものが姿を現す、女性が出してはいけないフォルムだ。それは全体像の一部、次第に全貌を現す。
「“火蜥蜴”じゃん、まだ残ってたんだ」
尻尾を掴まれ宙ずりの物言わぬ火蜥蜴、シチューに丸焼き、洞窟横にあった小山は二人が胃袋に納め崩したのにまだ残ってたんだ、どれだけ狩ったんだよ、感心する真。
「見てて」、尻尾の付け根に手をあてがい、滑るように手を流す。ゾリゾリゾリ、効果音をつけるならこれだろう、鱗が剥がれ落ちる。まるで雨、降り注いだ鱗は畳に刺さったり、鱗同士で接触し硬質な音を奏で散らばったり、魚の鱗とは違い一つ一つが大粒だ。
「あんたもやってみる?きれいに剥げると気分いいわよ」
「止めとく、血塗れになりそう」
「そう?何事も経験よ」
無理強いされず引き下がってくれて良かった。この鱗、凶器と変わらない、砥石を使わず素手で刃物を研ぐ行為に変わり無さそうだ。拾い上げた一枚の鱗をしげしげ観察する。きっとナナの手は鋼鉄製なのだろう、傍らで繰り広げられている素手で鋭利で硬質な鱗の処理を続けるナナを人間止めてんなと失礼な感想をいだく真に、
「こんなもんでいいかしら、次はこれね!」
鱗の小山を作ったナナは新たに昼間の魔女コスセットを取り出す、今度は杖付きだ。
「覗くんじゃないわよ!デリカシーのない男は八つ裂きだから覚悟しなさい!」
捨て台詞を残し着替えに脱衣所へ消えていった。重ね着すればいいじゃんと思わなくもないが、男と違い脱ぐわけでなくとも恥ずかしいのかも知れない。言いつけを守り鱗で手遊びをし待つ、これ包丁に代用できそうだな、女子の着替えより鱗に魅力を感じる真であった。
「お待たせ、どう!似合うでしょ!」
なぜ女子はやたら服の感想を聞くのだろう、自分が気に入ればいいだろうに。現れたナナは、魔女ハットにマント、ワンピース、黒で統一された衣装、先端にエメラルドカラーの透明度高い石が付いた杖をもつ、言わずものがなな魔女スタイル、わざわざ髪型を変える徹底ぶり、したつきにしたツインテールを肩から下ろし、魔女ごっこする子供みたいだった。だがこの感想は口に出してはいけない、俺が口にする言葉は決まっている。
「あ~、可愛い可愛い、超似合う」
「なんか心がこもってない気がするわ」
「気のせいでしょ」
納得いかなそうなナナ、これ似合う?女子に同意を求められたらこれ言っとけば半々はのりきれる、ソースは俺だ、妹のご機嫌取りの経験が生きたな!半々の確率で不機嫌にさせる処世術を披露した真、ナナの作業を黙って見続ける。
杖を構え先端の石を左手の甲にのせ中二的セリフを吐きだす。
「穿て穿て穿て!万物貫く鋭き爪!血肉欲する赤き爪!我が身に宿れ!供物を捧げる!鮮血女王の刺殺爪〈クイーンネイル〉!」
エフェクトがかかったりしなかったが詠唱を唱えきるとナナの左手、五指爪先の空間から赤く細長い、透明度高い針が生えた。魔法だ、すげーな。
「で、こうするの」
拾い上げた鱗、付け根部分に穴を開けていくナナ、硬質材質を意図も容易く貫く針、末恐ろしい切れ味だ、先端以外もそれならかぼちゃを真っ二つに簡単にできそうだ。
「調理にも使えるのよこの魔法」
「へえー、便利そう」
まさか本当に使ってるとは思わなかった。てか魔法ってこの世界でも使えるんだ、案外身近に魔法使いとかいたら価値観壊れそうだ。フラグになりかねない思考をする真。
五指を操り穴を量産するナナ。攻撃魔法である、鮮血女王の刺殺爪〈クイーンネイル〉、ナナにとっては便利な調理器具の一つでしかなかった。
キッチンから電子音がなり、米の炊きあがりを知らせる。しかし反応を示さない真にシロエが催促する。
「ごはんまだですか?炊きあがりましたよ、すぐ食べたいです真」
「あー、ごめん、ちょつとだけまって」
「別にいいわよ見てなくて、後は縫いつけるだけだし」
「じゃあ任せた」
真は台所に向かい、調理を始めた。と言っても今日のメインは米、つまりおにぎりである。具に箸休めを用意するのみ、米の炊きあがりを待っていたので程なく完成する。今日はおにぎりパーティーだ。
もっちりお米にぱりぱりのノリ、焼き鮭、ツナマヨ、明太、おかか、昆布、まだまだある、二人の注文を受け思い思いのおにぎりを握る赤褐色のエプロン纏う真の姿がそこにはあった。




