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横穴の奥にてその3


 “簡易テント”だった。


 二人はしばし硬直した。そして、みるみる気落ちした。落胆が隠し切れない


 金銀財宝、魔法の武具、まだ見ぬ未知の道具。何にしても売れば、いや売値など付けられないレベルの希少品を手にするはずだったのだ。それが“簡易テント”、はぁー。


 簡易テントは高価な品ではあるが中央の町に行けば売っているマジックアイテムだ。手のひらサイズのテントで、冒険中野宿せずにこいつの中で休憩できる代物だ。中は割と広く大人数十人が寝転がってもスペースに余裕がある。まあ、ぶっちゃけ、おのぼりさん用のレジャーグッツ、この評価が妥当だろう。このテント、外的衝撃に弱く中の人ごと簡単に壊れてしまう。もっぱらの使い道が、金持ち貴族を移送護衛する際、中に入っていてもらうくらいしかない。誰かに守って貰わなければ使用するのはあまりに危険な道具だ。



「ぬか喜びが過ぎたみたいね」



 先に立ち直ったナナが簡易テントを箱から取り出す。やはりどこからどう見てもただの簡易テントだ。それ以下でも以上でもない。売ればそこそこの値にはなる、それだけだ。

 口でこそ語っていないが、現状を打破できる魔法の剣、どんな攻撃も通さない無敵の鎧、とにかくこの箱を開ければ変わると信じていただけにナナは覇気がない。



「まってななちゃん、まだ何か入ってるよ」



 そんなナナに気が付かずあきらめ悪く、伝説級が簡易テントのみのはずがないと、まだ何かあるはずと、中をあさるシロエは紙きれをつかみあげた。

 商品説明と書かれていた。



 商品名“永遠箱庭エターナルエデン


 物理魔法完全無効プロテクトをかけた簡易テント。

 使用者が心から一番望むものがある部屋にて休憩をとれる。

 使用回数、無限。



「だってななちゃん、さすがにうそくさいね」

「そうね、でも伝説級から出た道具なんだから…!」



 おざなりに返答しつつナナは欝々しい気持ちをはねのけ脳を巡らせる。次第に宝箱を発見した時以上の感情が身の内からわきだした。ついにやけてしまう表情を隠しつつ「考えても見て」と、シロエに思考をうながす。



「ノーマルからドロップした私の“破廉恥鎧ビキニアーマー”さえ便利機能がついてたんだし、伝説級から出た一品、間違いなく本物のはずよ」



 う~ん、渋い顔でシロエは返答する。



「でも安全に休める簡易テントだよ、そりゃあさ、体力回復にはすごい便利だけどそれだけだよね、物理魔法完全無効なんて大魔法防具についてたらすごかったけどさ」

「ここよここ、この項目のここ見て」



 商品説明に書かれていた効果については疑っていない二人。破廉恥鎧で効果を確認済みの為だ。そんなナナがシロエの持つ商品説明書のある項目の箇所を指さす。



「使用者が心から“一番望むもの”がある部屋にて休憩をとれる、なにが言いたいか分かる?」

「望むもの?ふかふかお布団とやわらか枕かな」



 簡易テントの中はものがない、三角屋根構造の布テントで雑魚寝をする自身がうかんだのかシロエはのほほんと答えた。



「違うわ、私が言いたいのはね、心から望めば私たちに必要なものが手に入るって言いたいの」

「?、つまりどういうこと」

「だから、魔法の剣でも無敵の鎧でも、何でも手に入る武器庫を手に入れたんじゃないかって私は言いたいの!」



 物わかりの悪いシロエにナナは声を荒げてしまった。しかしそのかいはあった。



「!、ってことはだよ。火蜥蜴なんてへっちゃらだね!奴らを倒せる武器に防具を望めばいいんだもんね」

「そうよ!私たちは無敵よ!何でも手に入るの!財宝も望めば思うが儘よ!」



 きゃっきゃっ手を取り合いはしゃぐ二人。

 二人は何を想像しているのだろうか。

 金銀財宝、物欲を満たされた姿か。

 最強の武具を手にし、名誉を勝ち取る姿か。

 いずれにしても、生活に困る、などという事態は今後訪れはしないだろう。それだけの価値が簡易テント改め永遠箱庭にはあったのだ。…中二臭いので簡易テントと呼ぶが。



「分かってるわよね?」



 落ち着きを取り戻したのち簡易テントを地面に置きシロエを見上げる。



「うん!もちろんだよ!」



 頷き返すシロエ。二人の気持ちは一つ。

 天井の岩肌から水滴が垂れ、ぴちょんと音を立てる。

 皮切りにナナが合図を出す。「いくわよ、せーのッ!」声を合わせて望みを託す。



「「最っっ高ぅーにうまいものを食べさせなさい(てください)」」



 お宝も名誉も二人の前には食欲以下だった。

 話は前後するが二人がパーティーを断った理由、それが食への渇望からだ。


 “龍の肉はまずい”


 二人の共通認識だ。龍に限らず上級冒険者がパーティーを組んで討伐する大型モンスターは決まってまずいのだ。

 アンモニア臭いというか、身が固いというか、老廃物がたまっているのか決まっておいしくないのだ。同種の小型モンスターの方がよっぽどおいしく食せる。だからでかぶつ退治は二人には魅力的には映らない。自ら狩った獲物を食すと同じものでもうまくなる、ふしぎだ。うまいものを食いたい2人はまだ見ぬ食材を求めさまよう中、現状にいたっている。


 冒険者はロマンを求める夢追い人だ。人それぞれ求めるものは違い行き着くべき到達点も違う。ナナとシロエは志を共にする同士である。食を求める冒険者はそうはいない。そんな二人が欲するものは一つしかなかった。


 富みに名誉?そんなもん知るか、何事も腹ごしらえをしてから考えればいいのだ。

 最高の御馳走を食し、余韻に浸ったのち、武器でも防具でも貰いに行けばいいのだ。

 

 一瞬の静寂。のち二人の冒険者は簡易テントに吸い込まれその場から消えた。




 はらはらと紙が舞っている。シロエが手にしていた商品説明書だ。

 吸い込まれる際手放したのだろう。水気を含む地面に落ちた。

 水気を吸い滲む紙にはナナたちが確認していない裏面が存在した。


 “注、一度入った部屋以外とはつながりません。”


 知らずにナナたちは伝説級アイテム永遠箱庭の唯一の部屋を決めてしまったのだった。



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