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ふんわりパンケーキその1


「まだなの~真、甘い匂いが私を誘ってるわ~」



 コタツ卓上、ホットプレートに蓋をし、蒸し焼きしているパンケーキ生地。コタツに腰を下ろす5人、小柄なナナとメロが同じ個所で暖を取る。


 取りあえずかけたテレビを見もせずテーブルに腕と顔を乗せ脱力するナナ、ある程度お腹が満たされていると手伝いをするのも億劫らしく、今回はだらけている。シロエは言わずもがな、コタツのお供、かご盛りみかんを剥きテレビを見ている、自宅のような仕草だ。メロちゃんとクイーンは物珍しさから室内を眺めていたが、薄着でいられる向こうと違い隙間風吹く室内だ、コタツの虜になっってしまった、緩み切った顔でくつろいでいる。



「まだだって、もうちょいしたら蓋開けてこいつをかける」



 メロからもらった“低温炎着火液フレーバーオイル”香りづけに最適だ、同じ風味なら生地の違いにより意識を向けてもらえるはず。真は一人で準備した生地の入るボールを持ちあげ喋りだす。



「そもそもな、このパンケーキ、妹がパンケーキ食べたいって言ったことから生まれたんだよ。ド田舎だからおしゃれカフェなんてなくてさ、買えないなら作るかって、二人で試行錯誤してさ…」

「長いのよ話が、誰も聞いてないんだから黙って作りなさい、焦がすんじゃないわよ~」



 昔語りをとぎられたが一応反応してくれるナナ、そもそも話を聞いていない奴らよりはましか。この生地作りに小学生の俺と妹の夏休みの数日くらい使ったんだ。あの頃はあいつも素直でかわいかったのに、時間の流れは残酷だ、思い出の中では笑顔を向けてくれるのに。



 ホットケーキミックス、牛乳、卵に砂糖等調味料この辺は普通のホットケーキと変わらない。ここにマヨネーズとレモン汁、そしてレンジで溶かした餅、これらを用いて思い出のパンケーキ生地になる。



 黄身、マヨネーズ、レモン汁を混ぜる、その際白身は別どりし冷やしておく。混ぜたものにホットケーキミックス入れさらに混ぜる、今回は香りづけに“低温炎着火液フレーバーオイル”を入れた、直接火をつけなければ燃えないとのことなので安心だ。


 冷えた卵白に砂糖の代わりに和三盆を使いメレンゲを作る、ひとすくい生地に入れむらなく混ぜ、ここに溶けた餅を流し込みよく混ぜる、餅は牛乳と共にレンジにかけ溶かしたものをあらかじめ粗熱が取れるまで混ぜたものを使用する。その生地を残りのメレンゲ入りボールに入れ大雑把に混ぜる、これがふっくら生地のポイントだ、餅とメレンゲのダブルパンチ、某レシピサイトのレシピのいいとこどりで生まれたこの一品、とにかく混ぜまくるため腕力が必要で腕がパンパンになる。今回はハンドミキサーに頼ったのでそこまで負担はないのだが。



 後は今やっている焼き作業だ、これも割と気を遣う。低温でバターではなく、油をしき生地を流す。その際、生地に厚みを持たせるのを忘れてはならない、ホットケーキの様に焼いては生地をこだわっても所詮素人の浅知恵、パンケーキにならない。ある程度固まったら少量の“低温炎着火液フレーバーオイル”をかけ蓋をする。これを数回繰り返し、パンケーキを裏返し、また何度か蒸し焼き作業をする。すると4㎝くらいの厚みのある口どけふわふわパンケーキの出来上がりってわけだ。



「出来たぞ!、…ってビビるから無言で見つめてんなよ!」



 焼き作業に集中していて気づかなかったが、蓋の開け閉めで室内に生地と紅茶の香りが広がり、彼女たちのスイーツセンサーにかかったらしい。顔を上げると身を乗り出し、ふっくらもちもちパンケーキを覗き込んでいる4人と目が合った。



「わ、分かったよ、よそるから席について」



 目は口程に物を言う、甘味を前にした彼女たちは視線だけで真に指図する、「無駄口叩かず食わせろ」と、圧がすごい、同調圧力だ。女子多数、男子少数の場面で多発する逆らう気が起きない、いや起こさせない無言の圧、黙って従うのが吉だ。



「お好みでクマミツかけて召し上がれ」



 表面は白に近いきつね色、厚みのある白い生地、見た目から柔らかさが伝わってくる紅茶香るパンケーキだ。和三盆が降りかかり皿に香りと色合いを加えている、自画自賛だがうまそうだ。一度に焼けるのは四個まで、俺は次の焼き上がりで頂こう。



 思い出補正に高品質の素材、正直会心の出来だ、ふわふわもちもちパンケーキ初体験のみんなの反応が気になり窺う真。やわらかそうな生地の見た目、フォークの入り具合、つぶさに反応を示す面々、調理者としてうれしい限りだ。だが肝心なのは味、口に運んだ後の表情が物語る。ホットケーキとパンケーキはにて非なるものだ、どちらもうまいが満足してもらえるだろうか、一抹の不安がよぎる。



「おいっし~、ふわっふわじゃない、口の中でとけるわ、なにこれ!」



 杞憂だったみたいだ。大きく切り分け、一口で半分放り込んだ豪快なナナ、頬っぺたを膨らまし上機嫌だ、口の内容物を噴き出さん勢いで感動を伝えてくる。


 わかる、わかるぞ、“ホットケーキ=パンケーキ”この思考なら生地の口当たりが別物、素材はほとんど変わらないはずなのに本当にビックリするよな、かく言う俺も口にする前は見た目だけだろと思ってた、ただの流行りだろって。


 でも、マジでうまいんだよな、パンケーキ、そりゃ流行るわ、納得だよ。素人が工夫して作ったやつだって人を笑顔にさせられるんだもんな。



 真っ先に口にしたナナに続き頬張る面々、口当たりの柔らかさに口どけ、和三盆の上質な甘味、そこに加わるクマミツ、全体をまとめ見事なできだ。


 これが“パンケーキ”!、口当たりが半端ない!、“パン☆ケーキ”もうまいがいくらでも食べられそうな軽い感じはこちらにしかない魅力、もっと食べたい。



「おかわりいる人~」

「「「「はい!」」」」



「お、おう」、あまりの食い付きの良さに気圧されつつも、内心喜びを隠せない真、みんなすごい美味しそうに食べてくれる、それだけで胸が一杯で俺も満たされる、嬉しい限りだ。

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