横穴の奥にてその2
そもそもの話だが二人は中央のギルドに所属する冒険者だ。こんな辺境にいるような駆け出し冒険者ではない。12階級ある指標の内ナナは上から4番目、シロエはその下の階級だ。上二つの階級は勇者とその従者専用のもの。実質的に上級冒険者に入るのだ。
冒険者は上級ともなるとパーティーを組み、龍をはじめとした大型モンスターを討伐するのが一般的なのだが二人はそうはしなかった。腕がないわけではない、実際に二人にパーティーへの誘いは複数あった。数回は応じたが、それ以降は断った。なぜか、答えは簡単だ。
ぐ~~、二人の腹の虫がなく。
「あ~、お腹すいたお腹すいた!もうやだ~、あいつらぶっ殺して生で食べる~」
姉貴風を吹かしていたナナが突然ぐずりだす。
「ななちゃん、火通さなきゃお腹壊しちゃうよ」
シロエは見当違いななだめ方をし、抱き上げた。小さな子供をあやしているようだ。
なおもぐずるナナ、手足をばたつかせている。○学生の如く聞き分けがなく癇癪を起こした子供のごとしだ。あまりにも暴れるものだからシロエはバランスをくずした。
「っと、ななちゃん暴れすっ!」
重心が後ろにずれる。壁に全体重を預けた。そのとき、
壁が崩れた。
支えを失い二人は崩れた壁に頭から突っ込んだ。
幸い壁が抜けただけで、それ以上の不幸には直面しなかった。
「った~、大丈夫、怪我はないななちゃん?」
泥交じりの湿った岩肌に背をつけているシロエだが、
重心を失う中、根性でナナを胸元で抱きとめ手を離さなかった。
「…」
返答がない。
「ななちゃん、大丈夫なのナナちゃん!」
衝撃でしびれる体に鞭を撃ち胸元のナナの無事を確認するべく体を起こす。ナナは整った顔をこれでもかと見開いた瞳と口で健在をしめし、シロエの背後を指さし何かを見ろと促す。
そこには、
虹色の輝きを放つ宝箱があった。
“伝説級”
そう呼ばれる階級の宝箱だ。
「あ、あれって!」
二人は態勢を直すと、周囲の索敵もおざなりに宝箱へ駆け寄った。それもそのはずだ。
宝箱にも階級がある。ノーマル、レア、ゴールドこの三階級があり、主にダンジョン内にランダム生成される。中身は千差万別、武器に防具、魔法の道具、財宝に未知の技術品、そうそうたまに偽箱なんて擬態して油断した冒険者を捕食するやつもいる。
ノーマルでさえ数年冒険して1つ発見できれば幸運だ。最上級のゴールドなど数百年間で1箱出れば多いくらいと言われている。伝説級はその上、もはや伝承レベルでわらべ歌にもなっている現存すると思われてもいない品だ。
いわく、その箱は七色に輝き発光する。
いわく、極限状態の冒険者が死に際に見るまぼろしである。
いわく、中身を見たものはおらず、持ち帰るものはいない。
いわく、その箱にはこの世の理を超える何かが封される。
現存するはずのない伝説を目にし、黙っていられるはずがない。二人は冒険者なのだ。
興奮を隠せない、荒い息を吐き、シロエは声を発した。
「こ、これって!」
「間違いないわ、伝説級ね」
同じくナナも心が躍っているのか宝箱しか目に入っていない。
しかし、腐っても上級冒険者、油断はない。
「お、落ち着いて、新種の偽箱かもしれないわ」
「う、うん」
二人は武器を構える。ナナは身の丈を超える大剣を上段に構える、シロエは大剣に比肩する大楯を展開し、裏ではランスをかまえる。まずナナが動く。
命より大切なものはない、とびかかってきたら即座に切りふせる、迷いはないモンスターならば。
構えたまま宝箱に蹴りを入れる。
ガゴ、鈍い音を立てて宝箱はその口を開いた。
中から目を開いていられないほどのすさましい光量があふれ出る。
「「――っう」」
目をやられ声が出ない二人。偽箱ではない、この現象は本物の宝箱の証拠だ。
以前開けたノーマルとは比較にならない輝きだが。
次第に光量が収まる、二人は目をもみ、落ち着きを払う。
目の前には、伝説級、その中身、見たこともない何かが収まっているのだ。
はやる気持ちを抑え覗き込む、中身は、