”パン☆ケーキ”という名のホットケーキ
「やるじゃん、あんたたち」
クソガキ改め“クイーン”からお褒めの言葉を貰う真達、直径二メートル、厚さ30㎝はある特大の紅茶の香り付き“パン☆ケーキ”想像以上の代物に大満足、上機嫌の彼女は戦闘の労いにと、外で宴会の開催を企画した。飲めや歌えや大盛り上がり、とはいかないが。出席者は、真達と“クイーン”以外、皆“ベアー”口がきけない、しかし“クマミツ”をジョッキ飲み、切り分けた“パン☆ケーキ”を頬張り、嬉しそうに腰かけ・テーブル代わりの切り株をステージに見立て小躍りしている。観客の“ベアー”も一緒に踊り、静かな熱気。屋外フェス並みの光景だ、人間ならばだが。
男の自分にメルヘン過ぎて場違い感があるが、この見た目も香りも素晴らしいホットケーキに“クイーン”手づから作ってくれた“クマミツソーダ”、キンキンに冷えてはじける炭酸、早く喉に流し込みたいところ。
「いや、俺は何もしてないよ、やったのはこの二人」
女の子はスイーツ好き、ナナとシロエはキラキラした表情でパンケーキを見つめている。メロはマイペースに“クマミツソーダ”で喉を鳴らす。いいな、俺も流したい。
仕方なしに回答する真、切り札を渡したメロ、戦闘したナナを示す。功労者自ら名乗り出て頂きたいものだ。
「とにかくおつかれ~、ささ、遠慮しないでじゃんじゃん食べてよ!」
下手な接客言葉をやめ地の喋りをする“クイーン”。自身も食したかったのか早々に話を切り上げ、「乾杯―」、すでに飲み干しているメロは空のグラスで応じる。「お代り頂けます?」、宴会は無礼講とは言え自由過ぎる、お子様には時期尚早だったか、まあ、冒険者なら接待的な仕事なんてないだろうし、社会経験の一つってとこか。「好きな濃さで作れば?」「はーい」、2杯目以降は手酌、自作を求められたメロをしり目に真もグラスを傾ける。
シュワシュワ、喉を潤す微炭酸。グラスまで冷やす徹底ぶり、のど越し抜群だ、薄めた“クマミツ”、シャンパン色のソーダは、焦がし砂糖を思わせる香りから予想できない癖のないほのかな甘み、香料なしの自然由来、体に優しい素晴らしい出来だ。
割り具合もさることながら、グラスを冷やすひと手間、乾いた喉に体に染み渡る、一息であおりきってしまったメロの気持ちがよくわかる、これはうまい!
「っんぷっはぁー、い~や~、染み渡るわ~」
「支部長みたいです、アルコール入ってませんよ」
7割ほど飲み干し一口分残した真、共感したと思ったメロからのまさかの一言、そんなに親父臭かっただろうか、メロ以外の三人はパンケーキと対峙しこちらを気にするそぶりもない。俺も細かいことは気にせずにメインを頂こう。
メロに当たり障りない返答をし、真も対峙する。エメラルドの炎でフランベされたホットケーキ、紅茶の香りがついている。イチゴ、キウイフルーツ、バナナ、オレンジ、ブドウ、カラフルなフルーツ。クリームが溶け、蜜が熱され、フルーツに照りを与えとても食欲をそそる一品だ。木製フォークを入れる、表面はサックと、生地は滑らかに通り木製皿の底に当たる。まだ食べてないのにテンション上げさせてくれるじゃないか、たまらずフォークで掬う、待望の一口目だ、ではでは、失礼して、…うん、甘ずっぺ~。
お口に広がるフルーツの協奏、彩りのみならず味にも色を加える。甘味、酸味、渋味、苦味、それを包む“クマミツ”各々の主張をマイルドに包み味に調和をもたらしている。
そこに加わる、サックリふわふわ生地のホットケーキ。マジでうまい、忘れてならない紅茶の香り。こんなうまいホットケーキ俺には焼けない、プロの技だ、このレベルの品が喫茶店で出てきたらその店は当たりだ、通い詰めちまう。三人に続き真も無言で咀嚼していく。
「あ!おいし~」、メロはニコニコ、パクパク、ゴクゴク、他の面々とは方向性は違うが“食”をマイペースに楽しんでいた。
「「おかわり!」」
ナナとシロエが早くも完食し、追加を要求する。「俺も俺も」、でだしこそ遅かったが腐っても男、二人に追いついた真、三人とも口角が上がりいい笑顔である。その後、スイーツ女子二人は10回、真は2回、お代わりをした。お腹も舌も大満足であった。
「うまかったけどこれ、“パンケーキ”じゃなくて“ホットケーキ”だよね」
真の何気なく口にしたこの一言が出るまでは。
「「パンケーキ作れるの(れるんですか)、真」」
「っえ!専門店には負けるけど素人レベルでいいなら作れるけど」
即レスで反応するナナとシロエに控えめに返答する真。このやり取りを関心ありげに眺めるクイーンとメロ。
この世界では前提としてデザートとは、狩るもの。自作はマイナーだ、店でも十中八九、“デザートモンスター”を切り分けた品を提供している。製菓技術が無いわけではない、ただ作り手の練度に比重が置かれる品より、高品質な安定品が好まれる、それだけの話だ。そのため料理人でもデザートを商品レベルで作成できるものは少なく、一般人は手を出さない分野の料理なのである。
真の料理の腕前、異世界料理の存在を知る二人には真が存在をほのめかした異世界の“パンケーキ”、興味しかない。甘いものなら別腹、いくらでも入る、ならば機会を逃すのは愚行、作らせるべきだ。
「さあ、入って、私たちが見たことない異世界のパンケーキを真が焼いてくれるわよ!」
パンツ鎧をごそごそ、メロにわざわざ伏せた情報、真の部屋直通“簡易テント”を取り出しドヤ顔を披露するナナ。俺は困惑だ、このアイテム珍しいらしく存在を伏せることと、自分で言ってたのに。
「同じものを一緒に食べたらもう仲間みたいなもんでしょ」
俺の微妙な表情を読み取ったのかナナが補足した。この二人なら大丈夫だと思うがその理論、肯定したいが人は選んだ方がいい、そう思う真であった。
「へ~、異世界に通じる“簡易テント”、すごいですね~」
「今食べたのと違うパンケーキ作れるの?」
ざっくりした説明に各々反応するメロとクイーン。俺が森で拾われたって嘘ついたのに怒りもしないなんて心広いんだなメロちゃん、そう思う真、真実はお互いさま、怒る筋合いはないそれだけなのだが。
「念のため真の部屋に行きたいって念じて、今のところ真の部屋以外つながったことないんだけど」
素直に応じる二人、まずナナが、クイーン、メロと続き、「真、早く入ってください」、シロエに促されるが、「俺は最後でいいから」、断わり先に行かせる。
そろそろいいか、少し間をあけ真は“簡易テント”に吸い込まれた。
彼女たちを先行させ、コタツ内でもみくちゃ、お約束展開を回避する真なのだった。




