対決、パン☆ケーキその1
「そこの男の目は節穴ですか?私が人間に見えるってお医者さんに受診、勧めますよ~」
お腹を抱えゲラゲラ笑う“ベアークイーン”、ただのクソガキにしか見えない。真は困惑しつつ言い返す。
「喋るしパジャマ着てるし人間の子供にしか見えないんだけど、どこがモンスター?」
「私は“ベアー”達のボス、頭が一番良くて強い、だから進化して人型になったんです、このもこもこは“ベアー”だった時の名残、皮膚だからパジャマじゃないのであしからず~」
「それ皮膚なの!」
「皮膚ですよ、試しにって脱がそうとしないでくださいよ、出血しますから」
「いや子供を剥くとか俺にそんな趣味無いから!」
態度こそふざけているものの回答をくれる“ベアークイーン”、信じられないがモンスターならば、なるほど、問答無用で襲ってくる他の種とは違うようだ。話も通じ意思疎通できるが見た目は子供、人間と変わりがない。無害らしい外のもこもこ達も俺たちに目もくれず日常生活送ってたしな。
会話の切れ目の一瞬の静寂、背後から鈴の音が鳴る。カランカラン、戸が開きピンク色の“ベアー”が入室してくる。外はクリーム色のもこもこで埋め尽くされていたのでこの色の“ベアー”は珍しい。
身振り手振り“クイーン”と違い言語能力が無い模様、何か伝えようとしている。分からないがかわいいことだけはわかる、殺気立っているナナとシロエもクマちゃんを見てなごんでほしいものだ。
「あ~、了解、報告ありがと」、“クイーン”には伝わっていたのか“ベアーは”一礼し慌ただしく外に出ていった。
「状況が変わったので提案です、“パン☆ケーキ”が出たので狩ってきてもらえません?原型とどめて獲れたら“クマミツ”と交換するのを考えるのもやぶさかではありませんよ」
玉虫色の提案をする“クイーン”、パンケーキが出た、狩る、ニュアンスがおかしく感じる、どこか変わったこの世界のことだ、パンケーキモンスターが出ても不思議ではないだろう。そう自分に思い込ませる真。その間に、
「わかったわ、狩ってきてあげる、ただし、今度ごねたらあんたら皆殺しよ、ばらばらに引き裂いて動けなくしてやるから!」
「ですです」、「ちょっと待ってくださいよ~」、啖呵を切り荒々しく戸を開けるナナ、同調し続くシロエ、慌てて後を追うメロ、話がまとまり真も続く。
「いってらっしゃ~い、お帰りをお待ちしてま~す」
「外にいるベアーちゃんが案内しますから~」、最後まで態度を崩さない“クイーン”は両手を振り真達を見送った。退出後、「私の仕事、押し付けられてラッキ~」、上機嫌で新たな瓶を開けるのだった。
「っで、どうする?」
枯れ木林の中、“ベアー”達が戦っていた、“パン☆ケーキ”という名の巨大ホットケーキと。クリーム、カットフルーツ等カラフルにデコられた焼き色見事なホットケーキ、甘い生地の良い香り、それが宙に浮かび漂っている。
“ベアー”達は地に落とそうと集団戦を仕掛けるも、トッピングのクリーム、カットフルーツをまるで散弾、全方向にまき散らし撃ち落としている。弾は底がない、撃っても撃っても減る様子がない、無限湧きなのか、あんな見た目なのに手ごわいのではないだろうかあのモンスター、戦闘は素人の真、プロの三人の意見を求める。
「退治するだけなら簡単よ、地面に叩きつければお終い、でも食べられなくなるわ」
「う~ん、どうしよう、ななちゃん、あの“パン☆ケーキ”大きいよ、原型留めて倒すの難しくないかな」
現物を確認し、どうしたものかと思案する二人、ってかあれ食べるんだ、美味しそうな匂いしてるけどさ。“クマミツ”同様“パン☆ケーキ”にも興味がわいた真、むしろ“クマミツ”をかけて食べたいな、テディベア対パンケーキ、異色対戦に目もくれず味わいの妄想を開始した。
「ナナさんなら“パン☆ケーキ”に接近できますか?」
「ええ、問題ないわよ」
「ならこれを使ってください」
外套をごそごそ、メロは紅茶色の液体入り試験管を取り出し手渡す。
「これは?」
「“低温炎着火液”です、対象にかけて火をつければ、30~40度の火が付きます、これなら周囲に延焼させずにパンケーキを料理できます、でも…」
言いよどむメロ、自作の低温炎着火液、とにかく炎に弱い“パン☆ケーキ”の弱点を突いた的確なアイテムではある。しかも低温炎、丸焦げになる心配もない。だが問題が一つ、着火方法が無い、魔法では枯れ木に吸われ、火種にできない。接近でき液をかけても火種が無ければ意味がない。何か持ち運びできる火種、そんな便利なもの、あるわけないか、うつむくメロの肩を軽く叩くナナ。
「これ見て、便利なのよ、これ」
ッシュ、ッシュ、摩擦音、そして生じる小さな火花、涙滴型の炎が発生する、何かを握りこんでいるナナさん、このタイミングで出す道具、マジックアイテムではなく“未知の道具<オーパーツ>”だろうか、防具も変わった性能品を身につける彼女だ、変わった道具の一つも持っていておかしくないか。
「あ!俺の“ライター”やっぱりお前がパクってたんじゃん!後で返せよ!」
真さんが声を荒げる、彼の持ち物なら異世界の道具か、魔法でなく技術で火をつける便利な道具、あたしもほしいぐらいだ。「旧型100円ライターレアでもう手に入らないんだぞ!」「知らないわよ!これはもう私のものよ!」、小競り合いを始める二人、状況を理解していないのか、“パン☆ケーキ”が“ベアー”の蹂躙を続けている、あまり放置し続けては、今後の“クマミツ”生産量に影響が出てしまう。
「いちゃついてないで“パン☆ケーキ”焼きに行ってよ、ななちゃん」
「「いちゃついてない!」」
あまり自己主張しないシロエさんの横やりを受け声をそろえて言い返す二人、見方によっては痴話げんかに見えなくもないが違うだろう、だが効果はあった。
「行ってくるわ、念のため二人を守ってあげてシロエ」
「了解、いってらっしゃい、ななちゃん」
短いやり取りで意思の疎通をし、行動を開始した。駆け出したナナ、躊躇なく枯れ木の群生地に踏み込む。彼女の魔力に反応し、枯れ木からまるで触手、うねった枝を伸ばす、四肢を捕まえ拘束する目的だろう。あたしでは避けられない、捕まってそれで終わり、だが彼女は違う。小柄な身の丈以上の大剣を手に持ち、素早くかける、捕まる想像ができないほど軽やかに、舞うように動き続ける。時折大剣を振い、枝を断ち切る、最短距離で“パン☆ケーキ”に向かっている。文句は言えないが、なるべく枯れ木にも被害を出さないでほしいところだが。
「やっぱあいつすげーや」「だってななちゃんだもん」、仲間の二人は心配一つしていない、必ず成功すると信頼しきっている様子だ。
こちらに来て間もない異世界人の真、勇者補正があるわけではないが“付与術師”だ、今後の成長次第だが将来性は期待できる。
あの身のこなしから繰り出す体術・剣術のみならず魔法に精通し便利な装備品を持つナナの信頼を勝ち得ているシロエ、実力は未知数だがナナが頼りにしている相棒なのだろう、間違いなく強者だ。
村を出るなら、彼女たちみたいな冒険者集団に寄生して出ていきたいな、戦闘とか専門外だし、あ~、働きたくない、食っちゃ寝して養われたい。
「がんばって下さ~い~」、飛び跳ね腕を振り上げる、一見必死にナナへ声援を送るメロ、その内では真逆の思考をしているのだった。
距離があるため声援は聞こえないだろうが、枯れ木の妨害を超えいよいよ“パン☆ケーキ”とナナは接敵していた。
明日続き投稿します。




