クマミツその2
「あのクマがため込んだ樹液が“クマミツ”なのね」
「ぶんどればいいの?」、見慣れてしまった自分が嫌になるがパンツ鎧から大剣を取り出し武闘派の発言をするナナ、「いえ、やめてください、あっちのログハウスで買えますから…ぼられますけど」、ドン引きしたメロちゃんが蛮行を止める、小声で付け足した“ぼられる”、金払いは俺じゃないので関係ないがモンスターがお店屋さんごっこでもしてるのだろうか、クマさんのお店、うん、やっぱりファンシー。
「お金足りなかったらクマ襲っていいの」「やめてください、支部長にツケとけばいいですから」、この場にいない顎鬚オジサンに支払いはいきそうだ、ご愁傷様です。そんなやり取りをしつつログハウスを尋ねる真達。
「いらっしゃあ~せ~」
戸を開くとカランカランと鈴の音、やる気のないコンビニ店員風の挨拶が出迎えた。店員はクマさんのパジャマ着ぐるみ着ている、ピンク色なのは女の子アピールか、メロちゃん位の子供だ。お手伝いだろうか、流石にモンスターが接客はしないみたいだ。
店内はケーキショーケースが置かれ、“クマミツ”が陳列されていた。琥珀色の瓶詰されたそれは“時価”と記されぼったくる気満々に感じられる。というかスペースが余りまくっている、“クマミツ”以外売る気がないのか、商売っ気は感じられない。
「時価っていくらなの?」
態度の悪い舐めた子供に苛立たし気に尋ねるナナ。
「あ~、クマさんからもじって93万円でいかがでしょう」
ふざけた値段設定と感じるのは俺の金銭感覚がおかしいのか、というか…。
「日本円で買えるのかよ!」
駄目だ、思わず突っ込んでしまった。言語が通じるとか文字が読めるとか不思議に思う点も多々あったが日本円の流通はアウトだろ、俺が気づいてないだけでここ日本?
「異世界マネーは使えませんよお客さん、その様子だとご存じないんですか?」
子供店員から俺の疑問の回答がもたらされた。
なんでも、この世界に転移、転生する際、次元の壁を超えるらしく、その時にその世界に適した言語変換能力が備わるらしい。俺の状態から察するにもともと使える言語、つまり日本語基準でこの世界の言語を変換して伝えたり理解したり、してるらしい。
「なんで教えてくれないの」、「「「聞かれなかったから」」」三人が全く同じ回答をする、こんなことで息を合わせないでほしい。
「今の情報料込みで一つ200万円でお売りしますよ、いかがいたしますか~」
本体料金より高い情報量、あまりにもひどいぼったくりだ。これじゃあ村で品薄にもなるはずだ、料理より材料費が高いなんて商品として成り立たない。
「お嬢ちゃん、お手伝いえらいけどパパかママいるかな?度が過ぎると怒られちゃうよ」
ショーケースから商品の“クマミツ”を取り出し、手までがもこもこパジャマ、素肌が見えない指先で器用に木製スプーンですくいニタニタ顔でこちらを窺いおいしそうにミツを舐める店員に真が半ギレで抗議する。ナナとシロエはガチ切れである、殺意の波動を放ち、店員の出方を待っている、返答によっては最後の食事になってしまうかもしれない。
「経営者は私です~、文句があるならお帰り下さ~い、またのお越しをお待ちしてま~す」
「「ぶっ殺していい?」」
舐め切った店員に物騒な発言をするナナとシロエ、普段のシロエらしからぬ口調、食品関連の事案では本気度が違う、かく言う俺もなわけだが。
大剣とランスを構え店内ごと店員を始末する勢いの二人、このままだとまずいかも知れない。“クマミツ”まで破壊しかねない、心配する箇所がずれている真。
「私に手を上げたら大変ですよ、ベアーちゃん達に袋叩きにされますよお客さん」
余裕の態度を崩さずほらを吹く店員、モンスターが人間を庇うはずがない。鼻歌を奏で新しい瓶を取り出し味わい二人から更なる反感を買う、自殺行為だ。
「ちょ!やめてください!暴力沙汰は勘弁してください!お金はギルドが立て替えますから!」
あわや一触即発、ぎりぎりのタイミングでメロから待ったがかかる。
「いや~、お金つまれても売る気無くなっちゃったかな~、私たち“ベアー”はこのミツ食べてれば他は何もいらないし、“クマミツ”売るのも暇つぶしの慈善事業だから売れなくても構わないし~」
挑発的な態度でなおもマウントを取るクソガキ、これは拳骨の一発でもくれて教育的指導をする必要がありそうだ、拳を握りしめる真、ナナとシロエ同様、“クマミツ”のお預けで気が立っている。
「だから暴力で解決しようとしないでください!彼女は“ベアー”達のボス、“ベアークイーン”です、彼女に危害を加えると冗談でなく外の“ベアー”に襲われますから!」
「はあ!着ぐるみパジャマ着てる子供がボスモンスターってふざけすぎでしょ!」
真偽はともかくこの異世界、なんか思ってたのと違う、そう思う真であった。




