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黒衣の奇術師、メロ・フローその4


「皆さん、ここですよ」、周囲のログハウスより何回りも大きい明らかに民家に見えない建物の前で立ち止まるメロ。〈宿・クマミツ亭〉丸太の表皮を削った木目の看板、デフォルメされたクマさんが描かれていており思わず頬が緩む、目的地到着である。



「ここ、クマミツ食べれるの?」「あ~、確認してみないとわからないです」、建物食うの?なんて間抜けなツッコミを内心入れ、最後尾の真は後に続く。店内は温かい落ち着く雰囲気の内装だ、暖炉があり、ログハウス特有の丸太壁、天井も高く日の光を多く取り入れる空間だ。


 食事環境としては最高、さすがいい宿、うまいメシが食えそうだ。



 支部長から話が通っていたようで、一同を見た受付担当が「お待ちしておりました」と低姿勢で接客、あまりにびくつくものだから支部長が何と言ったのか気になるが、それよりナナが口にした店名にもなっている“クマミツ”是非とも味わってみたい。



 メロを除く3名の冒険者のぎらつく眼差しを受け身震いする受付担当。自身の態度に不手際があったのかと畏縮いしゅくするが、ただ3人の感情は食欲に支配されているだけなので無害、食事の邪魔をしなければだが。



「えっと、皆さんお腹が減ってるみたいなんで部屋より食事お願いしたいんですけど」

「あ!はい!承りました、あちらがお食事コーナーになっております」



 「メロちゃんありがとう」合掌し、感謝を示す受付担当。村内で有名人のメロ、知り合いが多いのも頷ける。三人は無言で振り返り食事スペースに向かう、この人たち欲望に忠実だな、メロは若干引きつつ後を追う。


 ホール担当の職員に案内され席に着く4人、お冷で喉を潤し一息入れるメロ。常連のメロはメニュー表を流し見し、



「皆さん何にするか決まりましたか?」



 メニュー表を見つめ身じろぎ一つしない3人に話しかけた。無言を貫く3人、空気が重い、自身で図太い性格だと自負するメロであっても仕事でなければ関わりたくない雰囲気だ。この3人、もしかしてだが…、



「「「クマミツ、食えないんだけど(じゃない)(じゃないですか)」」」



 メロの思考を遮り憤慨した。同じこと口に出している、できれば語尾まで揃えてほしかった、無駄な思考に上書きされるメロ。



「え~と、在庫切れみたいですよ、丁寧に書いてありますよね」



 厚切りきつね色トーストに琥珀色の蜜がかかった“クマミツトースト”、蜜により色付けされたであろう水滴したたるグラスの“クマミツソーダ”、色とりどりの花で飾られその蜜を思わせるソースがかかる“野ウサギのソテークマミツソース添え”etcエトセトラ、フード、ドリンク、デザート、問わずに“クマミツ”と名の付く商品がすべて現在扱っておりませんと記されていた。



 店名にもなっている“クマミツ”この村の数少ない特産品だ。最近流通量が減っており、口にできれば幸運、なので店内に入る前の質問に曖昧な答えを返したメロなのであった。



「ねえ、クマミツってどこでとれるの?」

「え?村から出て一時間ほど歩けば”養クマ場”がありますけど」



 ナナからの突然の質問、つい何も考えずに答えてしまうメロ。



「そう、じゃあ今から行っても夜までに村に戻れそうね、行くわよ」



 立ち上がるナナに同意し席を立つ2人、「え!本気ですか!他のもの食べましょうよ!」、メロの静止を気にも止めず、「案内お願いします」、シロエがメロも立てと急かす。


 あたしがごねても歩みは止まらないだろう、間違いない。この3人、地位とか名誉を求めて冒険してるんじゃない、ただ、食欲を満たすために旅をしてるんじゃないだろうか。


 単純で原始的な感情ゆえ、見栄で冒険者をやっている連中とは根本的に違う。気力を活力に変え死地を乗り越え、ここまで来たのだろう。“食への渇望”これが彼女たちの原動力ならどうしょうもないか。



「わかりました~、引っ張らないでください、案内しますから~」



 早々にあきらめ、3人の輪の中に入るメロ。新たな目的地、“養クマ場”に向かうのだった。


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