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幕間~日常の風景お茶漬け編その2~


「うまい!」


 それを生唾を飲み込み眺めていた二人、行動がわかれた。


 ナナは、簡単じゃないとみようみまね、シロエは、真お願いしますと作らせた。

 結果、



「うっすいじゃない、おいしくないわ!」

「おーいしーです真!もう一杯作ってください!」



 下手に料理の心得があっただけにナナが外れを引いたかたちになった。


 インスタントのお茶漬けを料理と言っていいか難しいが、作り方ひとつで味が変わるのもまた事実。

 

 ナナはいっぱい食べたいからと、こんもり米をよそい、シロエが口にする分は真作なので前述道理、一パックづつかけお湯もかける。

 

 ナナのどんぶりでは米が水分を吸い、お茶漬けならぬお茶風味の米になっていた。

 さらに米の量とお湯の量が多すぎたため顆粒の量も足りず味が薄かったのだろう。



 “まあ、そりゃそうだ”



 横からナナのお茶漬け作成過程を眺めていた真は自分も昔同じ失敗したなと一人、懐かしんだ。

 おいしいものならいっぱい食べたい。この思考がお茶漬けでは味を決めることとなる。この事実に気づかないとおいしく作れない、手軽だがある意味奥深いものなのだ。


「なにほくそ笑んでんの!」「おかわり!早くしてください!」二人のヤジで真は思考世界から現実に戻った。



「わるいわるい、貸してみ」



 ちょっと待ってとシロエにことわり、ナナのどんぶりを受け取る。そして自身のどんぶりにナナが使っていたレンゲでお茶風味の米を半分ほどうつした。



「ちょ!私が口付けたもの食べる気!」

「っは、なに言ってんの、乙女か」

「どう見ても乙女でしょ、ぴちぴちよ、ぴちぴち!」

「気にすんなよ、俺が口にしたもん食えって言ってんじゃねーんだしさ」

 


 年齢は聞いていないがおそらく10代だろう、思春期女子はどの世界でも微妙なお年頃らしい、まるで下着、その鎧姿で肌をさらす方が恥ずかしいのではと至極まともの思考をする真。

 

 恥ずかしがる琴線はいまいちわからないが、なおもぶーたれるナナを放置し、どんぶりにお茶漬けの素をかけ、米が浸かるまでお湯を入れナナに手渡す。



「ごちゃごちゃいってないで食ってみ、うまいから」

「まずかったらこれ、あんたの顔面にかけるから覚悟しなさい」



 某弱無人なナナは受け取った、どんぶりをかき込む。

 言葉をはっしなかったが気に入ったのだろう、無心でナナは食し続けていた。

 そして、一拍おいて、



「おいしわね、お茶漬けって」

「だろ!」

 


 二人は満足げに視線を交わした。



「真!こっちも忘れないでください!」



 シロエが催促し、

「いちゃついてないで早くお願いします!」、余計な一言も追加された。



「いや、いちゃついてないから」



 微妙なお年頃なナナを気遣い弁解する真。ナナは気にしたそぶりもなくお茶漬けを楽しんでいた。この場は“食欲”を最優先する猛者の集いである点を真は失念していたのだった。


 一人で意識しているようで気はずかしくなった真は、



「ほら、かしてみ」



 ごまかし切れてはいないが手早くおかわりの準備を始めた。



「2杯目は味変えてっと、これもいけるよ」



 鮭のほぐし身をのせ、お湯をかける、紅がかった桜色の油が米とお茶の色合いに加わり香ばしいかおりを放つ。



「おいしそうですね~、いっただきます!」



 ナナと同じでレンゲを使いかき込んでいく。そして、



「おいふぃ~れふ~」



 頬を膨らまし幸せそうな顔で感想を述べた。


 わかる、うまいよな鮭茶漬け。真は満足げにうなづく。

 もちろん市販品の鮭茶漬けもうまい。だが乾燥鮭と焼いたほぐし身では別物レベルで味が変わる。手間だがこのひと手間が大切なのだ。

 

 さっぱり茶漬けに鮭の油という旨み、口に含むと焼き魚の香ばしさも感じられる。お茶漬け本来の口当たりの良さもあいまり、美味な一品になるのだ。



「俺はこっちで二杯目食うかな」



 豪快に食べる二人に触発され真もおかわりを作る。


 真の二杯目はわさび茶漬けのようだ。どんぶりのふちにわさび寿司にしたら涙が止まらないであろう量を押し付け、湯を入れる。なみなみ注いだらかき混ぜる。ほのかにわさび香る茶漬けが完成した。


 ずずず、音を立てて口内に流し込む。鼻からわさびの香りが抜けていく。さっぱり茶漬けに清涼感が足され、口当たりの良さが強化されたお茶漬け、それがわさび茶漬けだ。でも鼻に来るんでしょ?と疑問に思う方もいるかもしれないがためしてみてほしい。熱を加えると特有のあのツーンと来る感覚、これが緩和されるのだ。なので、わさびの風味を楽しめる、これもまた美味な一品である。



 半分ほど食したところで、

 箸休めに浅漬けにはしを伸ばす真は気付いた。


 はしを使えない二人には小鉢の箸休めのおかずはつまみづらいのではと。

 しかし二人はメインの茶漬けに夢中で箸休めの存在を気にしてはいなかった。


 余計なお世話かも知れないが小鉢で口内の味をリセットしてほしいと真は思う。


 “うまいものの一口目は感動的である”


 真の持論だ。ファーストインプレッションという言葉がある、初見が印象的という意味だがこれはうまいものにも当てはまる。やはり最初の一口がうまいのだ。もちろんその後もうまいことはうまい、だが舌が味を覚えてしまっているので一口目程の感動はない。そこで箸休めの重要性が発生する。基本箸休めの役を得る食材はさっぱりしたものが多く口内を包んでいる味を流してくれるものなのだ。つまり、つぎの一口を最初の一口に戻すためのごはんのお供なのだ。


 しかし、無理強いは良くない。ごはんは自分の思うままに食らうこともまた美味な食事法であるからだ。


 二人にはいつか自身の考えに共感してほしいと思いつつも真は口を閉ざし食事を続けていった。



 やがて本日の食事会が終わる。2升あった米は食いつくされ、お茶漬けの素も使い切った。満足したのか二人は膨れたお腹をなでている。


 流しで洗い物をする真は誰に聞かせるでもなく呟いた。


 “みんなで食べるメシってやっぱうまいな”


 こうしてまた一日が過ぎていった。


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