お外でごはん~火蜥蜴のお肉その6~
「例えば火蜥蜴の丸焼き、こっちもおいしかったでしょ?これを真が自ら取ったと考えてみて、焼き魚と一緒よ。自分で釣った魚を塩焼きで調理する、買った魚よりおいしく感じるのはなんでなんでしょうね」
漫画肉を手に小さなお口に揃った白い歯をのぞかせ口をつける。実においしそうに食すナナ。生唾を飲み込みその仕草を眺める真、シチューを口に運ぶ手が止まっている。
美少女のお食事にフェチズムを感じているのではない、ナナの言葉を真に受け、想像してしまったのだろう、自分の手で取ったまだ見ぬ食材を調理し食べる己の姿を。
「っや、でもさ、俺、戦ったりできないよ。剣、触れないし、鎧も重くて着たら動けないし、なんもできない俺を誘う理由ってあるの?」
当然の疑問、真にはうまい話でもナナ達にとってのメリットが分からない。この場での回答は“バフ”ではない、もっと原始的で当たり前な回答、それは。
「みんなで食べるごはんっておいしいわよね、一人より二人、二人より三人、おいしいって思えるものをもっと大勢と分かち合いたいって思うのはおかしいかしら」
今日一番の決め顔で格言っぽく言い放つナナ。真は感じ言った風に「確かに」と、つぶやき頷いている。納得して応じてくれそうだ。細かい打ち合わせも必要だが後でも構わないだろう。
「もう一度聞くわ、私たちとパーティーを組むことを前提にトリオとして冒険してみない?」
返答はごはんが絡むなら、決まっていたようなものだ。
「役立たずだと思うけどよろしく頼むよ」
「構わないわ、あんたの世界の食べ物もいろいろ教えなさいよ」
「ですです、三人でおいしいもの食べましょう」
三人の意思がまとまり、トリオ結成の瞬間であった。
「で、事後承諾で申し訳ないんだけどね、あんたの部屋、私たちのパーティー拠点〈仮〉にして遠慮なく使うからよろしくね」
「っえ!聞いてないよ!」
「だから事後承諾って言ったでしょ、リーダーは私、反論は認めないわ」
早速、仲間割れを起こす二人、苦笑いの真は無茶ぶりを承諾するだろう。おいしいものがみんなで食べられるなら、多少の厄介ごとは目をつぶる、今はこの世界の食材、食事で頭がいっぱいなのであった。
ひと騒ぎし、食事も落ち着いた頃、ナナが立ち上がり、
「今後の方針を発表するわ、まずは辺境の村に向かいギルドに復讐…、討伐報酬を分捕りに行くわ、死にかけたんだから相応の物を頂かないと腹の虫がおさまらないもの」
嫌悪感を若干隠し、報復宣言をした。真は詳しくは訊ねなかったが、火蜥蜴の山を二人で積み上げなくてはならなくなった原因に何かあるのだなと日本人特有の察する心で宣言に「おー」、パチパチ手を叩き相づちを入れた。
「こっからだと、4日、5日くらいかかるからすぐに殴り込みに行けないのが残念なんだけどね」
「そう、ところでなんだけど、こっからどうやって移動するの?」
講釈を垂れているナナに疑問をぶつける真、絶景といえる大自然を望めるロケーション、道がない。洞窟を通るにしても先が予想もできない。
「ああ、真は“簡易テント”で拠点に戻って休んでいて、そこの崖を下りるんだけど無理でしょ?」
なにを当然のことをと何気なく言い放つナナ。もしかしなくとも二人の冒険に同行すると決めたのは早計だったのではと若干後悔する真だった。
「じゃあ、片づけたら出発よ!」
「おー」元気に返事をするのはシロエのみ、奇妙な縁で生まれたトリオの冒険が始まるのだった。
ここまで読んでくれた皆さまありがとうございます。
この書き出しだと終わりみたいですがようやく、
異世界転生物でいうところの、”交通事故、目覚めると異世界”
この書き出しを作者なりのお話で書き上げたところでしょうか。
お待たせしました、やっと物語が動き出しますよ。
と、あおっておき明日投稿話は、村に乗り込む前のある日の食事の風景だったりしますがあしからずです。
ではでは~。




