お外でごはん~火蜥蜴のお肉その5~
しかし目的は真を唸らせることではない、今が切り出し時、まずはジャブからだ。
「お願いがあるんだけどいい?そのままでいいから聞いてね」
器で顔を覆い表情が伺えない真にナナは上目遣いで訊ねた。そこには普段彼女がしない女の顔があった。赤らめた顔、潤む瞳、恋い焦がれた乙女のもじもじを思わせる、同年代の男性、しいてはおじ様まで通じる胸キュンでありエモい仕草である。
自身の“美少女”という恵まれた武器を振うナナ、男ならば思わず目を奪われてしまう可憐な乙女、にべもなく耳を傾けるだろう。一般男性ならだが。
「おかわりもらえる?食べながらでもいいんだよな?」
いい笑顔で器を差し出す真、こちらも雰囲気だけならイケメンであった。「…え、ええ、構わないわよ」「私がよそるよ」、自身もおかわりが必要なシロエが真の器を受け取り席を立つ。通じるとは思っていなかったが全く反応がないのも悔しいもの、ジャブを撃ち続ける。
「私たち年端もいかない可憐な乙女じゃない?女二人の旅って危ないと思わない?真にも一緒に冒険してほしーなー、なんて思うんだけど、どう?時間の空いてるときだけでもかまわないから」
恋い焦がれる演技を披露、真はそのナナの背後に指をさし口を開く。
「あれ、二人でやったんだろ?無骨な俺なんかより可憐な二人の方が腕っぷし強そうだし必要ないでしょ」
積み上げられた火蜥蜴の山をしめし、正論を口にする。見ていないようで周りを見ていた真、意識していないだろうが嫌みに受け取られてしまう発言をした。
細マッチョぎみな癖に私の方が筋肉あるって言いたいのこの男、女の扱いがからきしなんでしょうね、きっと。モテなさそうな趣味に生きる人のつらしてるもの。
自己評価が高いナナは相変わらず自分のことを棚上げし「ふん」と、鼻から息を出し、真をこばかにし、本命の交渉術を使うと決めた。
「おかわりどうぞ」「サンキュー、ありがたくいただくよ」、能天気に食事を再開する二人、ナナは待ってましたと真に話しかける。
「おいしいでしょ~、こっちの世界産食材のオンパレードよ、一緒に冒険すればいろいろ見たり食べたりできるんだけどな~」
先程よりあからさまな勧誘、日本で安定した生活を送れる以上乗る必要はないはずだが、
「…、っう、いや、だって、俺の部屋にこっちの食材持ってきてくれるって言ったじゃん、俺が直接冒険しなくとも二人が持ってきてくれるんでしょ?足引っ張るだけだろうし、遠慮しとくよ」
色気より食い気、明らかにナナのジャブより効果があった。揺れている、押せば天秤は傾きそうな気配がビンビンである。ナナは好機とみてたたみかける。




