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和風プリンが食べたくてその3


「ちょ!あんた!泣いてんの!」



 うつむき表情を見せない真。足元には、ポロポロ、光を受け輝きを放つしずくが落ちる。よだれではない、粘度がない。つまり、窺えない顔、その瞳から生成されたものであろう。


 いわゆるガチ泣きである。声は上げない、ただとめどなく流れるしずくは止められない。


 部屋に不法侵入?構わない。勝手に入浴?どうぞご勝手に。私物を物色?やめてほしいが許容範囲、着古していないひーとてっくを伸ばされワンピースにされても、おろしたてのTシャツを駄目にされてもまだ許せる。プリンを完食?それだけはだめだ!まだ一口も食べてない、俺の楽しみだったのに、…。

 

 怒の感情はわかず、ただ、食せなかった後悔、悲しみ、哀の感情が真の胸にはあふれ出る。



「気にしないでくれ、うまかったんだろ?ならよかったよ」



 腕で顔を覆い、部屋に上がった真は、流しに向かい、うがい手洗い、顔も洗っている。その背中には哀愁が漂っていた。そのさまを眺め、さすがの二人にも罪悪感が芽生えた。


 私なら自分の楽しみにしていた食べ物を勝手に全部食べられたらキレて何をするか分からない。ああにはならないけれど。年上の男性のガチ泣き、その背中を見せられ戸惑う二人。年上の男を泣かせた数は数え切れないが、状況が種類が違う。


 金持ち貴族の悪事を暴いた時の怒りと失意の涙、ざまあみろだ。

 私たちを女と若輩者と罵った輩の悔しがる涙、努力が足りないあなたの落ちど。


 まだまだあるが、どれも違う。私たちに落ち度があり、感情を自身の内にため込んでいる。文句の一つも口にすると思っていたが、この男は内にため込むタイプ、面倒な男だ、文句があるなら口に出せばいいのに。


 罪悪感=謝罪にはならない。二人は悪かったな、と思いはするが、おいしいプリンを口にしたことに一つの後悔もない。火蜥蜴の卵黄色のぷるるんボデイ、なめらかな口触り、普段食べなれない風味の異国情緒あふれる一品であった。それが、そんなに大事なら、持ち歩くなり、金庫に入れて誰にも触れられなくすればいいのだ。あんなにも、“私を食べて”と言っているかのようなプリンを冷蔵庫に入れておく真が悪いのだ。


 暴論を正論に変え振りかざす二人。真は泣き寝入りするしかないのだろうか。いや、二人に目をつけられた瞬間、搾取される側に回ってしまったのだろう、あきらめも肝心なのかもしれない。


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