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和風プリンが食べたくてその1


 木枯らし吹きすさぶ秋晴れの空模様、本日は3コマ目の講義一つのみ、バイトの予定もない。時刻は15時、おやつの時間だ。真はアパート二階、自室に続く階段を塗装のはげた手すりを使わずのぼる。自室にて待つは、特濃プリン。冷蔵庫にてかぼちゃプリン色の愛しのぷるるんボデイ、早く食べてよと俺の帰りを待っている。今行くぞ、我が黄身よ。君と黄身をかける、寒い思考を披露し自室のカギを開錠、ドアノブをひねる。



「今帰ったぞ!我がプリンセスよ!」

「おかえり真、あんた一人でも楽しそうね」

「おかえりなさい、おいしかったです、おかわりないんですか?」



 自室にて真を出迎えるはずの特濃プリンはすでに二人の手の内、お礼がわりに真の部屋着を勝手に拝借、コタツにて暖を取りくつろぐ、昨夜ぶりの異世界人から声をかけられる。玄関にて固まる真にナナは構わず声をかける。


「あんたデザートなんて自作できるのね」、その言葉は右から左に抜けていく。コタツ卓上、器に使ったサラマンダーの卵、スプーンを持ちカラメルで口を汚す二人、「おいしかった、おかわり」、まるで過去形、既に存在しない食品に使う言葉、導き出される答えは一つ。真は表情を失った顔で一言。



「…、俺のプリン、全部食べたの?」

「「ごちそうさま(です)」」

「うわ。まじかよ、一日の楽しみが…」



 おいしいものを食べると人は頬が緩む、まさに二人はそれだ。プリンみたいにやわらかそうなほっぺが真のプリンが美味であったと物語っていた。もう食せぬとあきらめた真はせめて、摘まんでおけばと後悔し、在りし日の、プリンの姿を思い浮かべた。



 昨晩、二人が帰ったのち真がしたこと、それが卵の使用法の検討である。雑炊調理上、適量を入れたが特大サイズの黄身は残った。捨てる選択などありえない、ナナの発言からしてまたやってくるのは間違いない、その時までに食してしまいたい。目ざとい彼女のことだ、黄身を使い切っていない点に気付いているはず、催促されても面倒だ。この思考から最終的にはプリンの作成に落ち着くのだが、この男、その場の考えで行動の優先順位がちらほら変わる。家族の声が聞きたい、電話したい、その思いも確かにあったが、優先順位はやはり“食”が上位になってしまうのだった。



 台所に立ち尽くし真は思案している。


 黄身を素材のまま味わうなら、TKGにするべきか。炊き立てのお米にまとわせ、出汁醤油でかき込む、濃厚な黄身のうまみをまとう米、さらにカキなど海鮮系統のうまみ入り醤油、二つの旨みのハーモニー。雑炊で満たされている胃が、よこせと消化を速めている錯覚に陥る。だが、さすがに今日は食いすぎた、三人で囲む鍋はやっぱりうまいな、箸が進んじまったよ、たまにはいいな皆でごはん。


 頬が緩む真、真の中ではみんなでごはんと言えば、今までは家族団らんが浮かんでいた。しかし今は、あの二人と囲んだ鍋が浮かぶ、楽しかったのだ。今日知り合った他人と言ってもいい間柄の二人、しかし、同じ釜を食った仲でもある、奇妙な、友情と言ってもいいのか、どうもあの二人は他人とは思えない何かがあったのだ。…まあ、また来るといっているし険悪な関係よりは友好関係にある方が互いにとっていいだろう。


 ひとまず二人のことを思考の外に追い出し、卵に意識を戻す。


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