決戦、火蜥蜴その6
「あ!しまった!」口にこそ出さないがシロエはここ一番の踏ん張りどころで失態を犯してしまった。ランスが手から滑り飛ぶ、ランスを染め上げた血のりを血しぶきに変え、直線に飛翔したランスは岩壁をいともたやすく貫いた。壁に槍が生えたのだった。
数を減らしたが健在の火蜥蜴の群れ、あの距離では取りに行けない、そもそもこの場を離れるわけにはいかない、ななちゃんの加勢が入るまで持ちこたえるんだ。
バフで強化された肉体、肉弾戦のみでも戦闘は可能、しかし射程が威力が格段に落ちる。一匹仕留めるのに時間がよりかかる。過ぎたことを悔やんでも仕方ないが、奴らの体液が滴る柄を手間でも拭き取ればよかった。石突に布でも括り付けておけばよかった、これからはつけとこ。意外と余裕の思考をするシロエ。
ランスを手放したシロエは意気消沈することもなくこぶしを振り上げなおも奮闘する。そのさまは、まさしく“バーサーカー”理性などかなぐり捨てたかの如く烈火の勢い、肉体と本能のみで手当たり次第に死を振りまくシロエ、射程内にいる火蜥蜴は戦慄した。千載一遇のチャンス、とんでもない、今は亡き同胞の執念がつないだ武器の喪失、しかし眼前の鉄塊は止まらない。我らよりよっぽどモンスターではないか。
しかし我らとて引くわけにはいかない、人間の分際で巣に侵入しあまつさえ卵を強奪したのだ。その罪、死など生ぬるい、死後の安らぎなど与えられぬほどむさぼって我らの糧としてくれよう。
火蜥蜴たちは特攻を仕掛けた。が、容易くいなされる。飛び掛かる複数体を上半身、主に腕で叩き落とし、胴に到達した者も、腹筋を張り、弾き飛ばす。鎧と鱗の擦れる硬質の音が響き渡る。地に伏せる火蜥蜴、しかし彼らは目玉と舌で表情と呼べるかわかりかねるが、もし人間なら、したり顔と表現できたろう。飛び掛かった彼らは陽動、はなから勝負にならないのは承知の上、個ではなく全の勝利のための行動であった。
「まずい!」鎧の内、表情をこわばらせ、シロエは毒を吐く。全身鎧〈フルプレートアーマー〉の弱点を突かれたのだった。防御性能に極ぶりされた超重量級の鎧、頭部も例外ではない、性能上、目ざし穴から視界を確保している、つまり視界が狭まっているのだ。その点を突かれた。
先程の襲撃はおとり、本命は機動力をそぎにきた集団戦法、モンスターと侮った。火炎以外にもこんな落とし穴があったなんて。
脚部関節部、鎧の継ぎ目、数匹の火蜥蜴が頭部を、腕を、自らの体を栓とし、命と引き換えに機動性を奪っていた。鎧の内、滴る奴らの体液、不快に感じるも、なお奮い立つシロエ。しかし、火蜥蜴にとっては条件がそろった瞬間でもあった。
ランスを手放し、攻撃範囲を失う。
関節部をつぶし、機動性を失わせる。
個の力で敵わないなら全の力、火炎をさえ吐ければ、焼き殺せる、その機会さえ作れば人間など熱に対する耐性など無に等しい。
喉の袋を膨らまし、口端から漏れ出る炎、すでに噴き出す準備は整っている。我らが同胞よ、今、敵を取るぞ!
シロエの前方、ランスが、機動性能が健在なら一振りで対処できた距離、その絶妙な位置取りより火炎が放出されようとしていた。
拳は届かない、中断させる方法を考える暇もない、ならばとる手は一つ、むしろそれが私の本職だ!
明日の投稿もお昼頃おこないます。
たぶん13時過ぎくらいかと。
お時間があるようでしたら覗いていただけると嬉しく思います。
ではでは~




