決戦、火蜥蜴その5
「了解だよナナちゃん!こっちは任せて!」
四つん這いで着地したシロエは自身の肉体を武器とし、その衝撃で複数の火蜥蜴を圧殺した。そのさま、ナナの大剣による衝撃と違い純粋な重量による攻撃、直撃した火蜥蜴は無残、内容物をまき散らしシロエの鎧を自身と同色に染め上げた。
武具の汚れや傷は騎士〈タンク〉の誉れ、気にしたそぶりもなく立ち上がるシロエ。背負っている大楯に収納された細身の馬上槍、ランスを取り出しナナに答えた。返答などはなから期待していない、背後から聞こえる火蜥蜴の断末魔が答えの代わりなのだから。
シロエの役割は簡単だ。ただ守ればいい、ナナの背後、一匹の火蜥蜴さえ通さず、彼女が眼前の敵に全力を注げるアシストをすることだ。私が守り抜けば、ななちゃんが必ず活路を見出してくれるのだから。ナナ同様、シロエも相方を信頼しきっていた。
その二人のコンビネーションは強固なもの。互いを信頼するがゆえ、自らの役割を相方を気にせず全力で行う、その結果が互いの戦闘に効果的な結果をもたらす。まさに理想的なコンビの姿をそこにあった。
頭上に構えたランスを回転させ威嚇を行いなおもシロエに警戒を続ける火蜥蜴共に自身の存在を主張する。効果はあった、この位置からではランスが届かない位置にいた喉を膨らませていた一団は、シロエの突然の登場に動揺しその後の行動に警戒したのか他の火蜥蜴同様、臨戦態勢を取っていた。
短い手足をしならせ飛び掛かる者を、回転の勢いそのまま、ランスで貫く。その巨体、重量を感じさせない軽やかな槍さばきだ。集団でとびかかる者にも冷静に対処、一突き、二突き、槍が前後する動作は全身を鎧で固めた女性のものとは誰が思うだろうか。そして驚くべきはその槍さばきを可能とする彼女の怪力としなやかな筋肉という二律背反した肉体が見せる美技、バフがのっているとはいえ、硬質な火蜥蜴の鱗をやすやすと貫通させ続けている点だ。
シロエは全身固めた鎧とその背の大楯に目が行きがちだが槍さばきにも一家言ある。スタイルを変えて軽装に身を包み、より機動性に重きを置けば、戦士〈アタッカー〉としても相当の腕利きとして通用する実力はあるのだ。しかしそうはしない、シロエはナナと剣を共に振る道よりも、盾としてある自身が彼女には必要であると感じているからだ。
ただでさえ二人しかいない私たち、役割がかぶることは致命的だ。“兼業職“が求められている。多芸なナナとは違いシロエには武力しかない。しかし武力とは力のみではない、守も知も技もある。私のできる武力を振るうんだ。
シロエは数を一向に減らさない火蜥蜴の集団をいなし、貫き、自身の背後に一匹たりとて通さない、その姿、五条大橋の弁慶、はたまた、長坂の戦いの張飛もかくいう気迫にあふれる活躍だった。二人は全体量の半数を上回る屍を築いた。しかし、不運とは突然訪れるもの。




