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みんなでごはんその8

本文中上部、〈〈 〉〉 で覆われた文章は


”みんなでごはん7.5”を未読の場合、目を通してください。

読んだよって方は 〈〈 〉〉 部分読み飛ばしてください。


分かりずらい仕様で申し訳ありません。

 

 〈〈その後、例の卵を用いて雑炊を作り、三人で食した。とても美味であった。〉〉

 〈〈コクが旨みが、なにより濃度が違うサラマンダーの卵。溶くのにも一苦労だった。黄身に弾力があり過ぎるのも考え物である。そして、その食事を通し三人はそれぞれ感じ取ったのだった。〉〉




 真は思う。自身の鍋には自信があった、昆布、アゴ、鰹節。配合割合に、だしを取る時間、煮込む温度に、真心。現状込められるものすべて込めた渾身の傑作であっただし汁。しかしそれだけではあの卵に負けてしまっていた。素材一つに自身の傑作が押し負けたのだ。ばーちゃんのキムチがあって初めて、調和のとれる、対等な存在となっていたのは言い逃れのできない事実だった。もっともっと料理の腕前を上げなければ。



 大学やバイト、日常を送るサイクルからさらに関心が薄れる真であった。




 ナナは思う。私の住む世界でもまだ見ぬ食材、料理、その存在は数え切れない。それに加え真の部屋経由で異世界でも巡り合えるのだ。さらに真という料理人も確保できた。本人が何と言おうと真も”食”を求める探究者だ。あれだけ“食”にこだわりがある人材はそうはいない、異世界で同士を見つけられた。今日はなんて素敵な日なのだろう。これだから冒険は止められない。



 食への出会い、真との邂逅、異世界へ通じる“簡易テント”、短時間に胸躍る多くの出来事、ナナは舞い上がっていた。忘れてはいないだろうが、この後には火蜥蜴との決戦が待っているのだが気にした様子はない。




 シロエは思う。あー、おいしかった。ごちそうさまー。



 この三人の中で一番純粋に“食”を楽しんではいるが、言い換えれば何も考えていないシロエであった。



 食休みを挟み、ナナとシロエが元の世界へ帰ろうとしている。



「またご飯食べに来るからちゃんと用意しときなさいよ」

「それじゃまたです~真、また食べに来ますね~」



 そう言い残しコタツに潜り込むと二人はもとから室内にいなかったように消えてしまった。まるで幻でも見ていたのではと思うも、無くなった鍋、異世界の食材、室内に満ちる鍋の芳香に彼女たちの残り香、そのすべてが現実だったと語っている。



「…」



 テレビでは芸人が笑いを取っている。笑い声が室内に流れる。

 突然の来訪者、正直わずらわしさもあった。だが二人がいなくなって初めて気が付いた。



「なんか、さびしいな、一人でいるのってこんな感じなんだっけ?」



 実家を出て2年目の年を越そうとしている真。その間、冗談ではなく人とのかかわりが薄かったため今日の触れ合いは家族や地元の友人達を連想させた。今年は実家に帰ろうかな、みんなに会いたいな。そんな思考をする真に、



「安心なさい、毎日ご飯たかりに来てあげるから、寂しい思い何てする暇ないわよ」



 帰ったはずのナナから声がかかる。



「帰ったんじゃないのかよ!」

「確認しない真が悪いんじゃない、それにしてもあなた以外にナイーブなのね」

「うっさいわ!空気読んでくれよ!なんか俺恥ずかしい感じになっちゃたじゃん!」

「ふふ、大丈夫よ、見なかったことにしてあげるから、またね真」



 そう言い残すと今度こそ帰ったらしい、人の気配が消えた。コタツの中を覗いても二人はいなかった。




 翌朝食べた鉄鍋に残ったおかわり用のキムチ鍋。おいしかったが、昨晩、三人で食べたあの、あったかい、幸せな味はしなかった。



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