みんなでごはんその7
「刺してみなさい」
ナナに肩を叩かれ菜箸を手渡される真。黄身を刺せというのか、摘まめるやつや、楊枝で刺しても崩れない奴なら見たことはあるが、箸は太いので刺したら流石に崩れるのではないか。
せっかくの異世界食材、大切に扱いたい。しかし自身満々に勧められる手前、断わり辛いのもまた事実だが、そもそも溶いてかけるための卵。もったいない気もするが箸を刺す。
殻という器の中、黄身に箸が二本刺さる。表面の膜に阻まれ黄身が形を変えたわけではない、言葉通り刺さっている。手を離すと箸が立った。ありえない、黄身があふれて出てこない。
「すげー、われないぞこの黄身」
「それだけじゃないわよ、味も特濃よ」
驚く真に得意げにナナは言い放つ。
生唾を飲み込んだのか喉が音を立てる真、食している自身、その味を想像したのだろうか。
「まだですかー、待ちくたびれましたー」
一度はコタツに戻ってきたのだ、もう食せるとの思いから焦れたシロエから催促がかかる。
「もうちょっと待ってて、すぐに終わるから」
ナナが答え、卵にくぎつけな真にも話しかける。
「ねえ、真、この卵、食べたいわよね?」
「そりゃあ食べたいけど…、っえ!これを使えって意味で出したんじゃないの?」
「そんなこと一言も言ってないわ、私は鶏の卵しか口にしたことないだろーなーって思ったから食事のお礼に見せてもいいかなって思っただけよ」
「そんなあー、まじかよー」
あからさまに気落ちする真。心なしか一瞬で老け込んでしまったと感じるほどだ。
そんな様子を確認しほくそ笑むナナ。つい先ほどまでは純粋にお礼の気持ちで出した卵、しかし真の食いつきは予想以上。これはもう、卵をエサに交渉してくださいと言っているようなものだ。…まあ、本当にうまいものをご馳走してくれたので無理難題を押し付けるつもりははなからないのだが。
「一つだけ条件をのんでくれたら、その卵あなたにあげるわ」
「なんだ!何でも言ってくれ!俺にできることならやるから!」
あまりに必死な返しにナナは気圧されつつも一つの提案をした。
「簡単な話よ、今後も私たち二人でこの部屋に来るからちゃんともてなしなさい、断わっても勝手に来るつもりだからうなづいといた方がお得よ」
ある意味拒否権のない問。答えの成否で結果は変わらず得るものがあるならば、得をする方を選ぶはず。真は返答する。
「ああ、いつでも来てくれ…と言いたいが、金ないから今日みたいにいつでももてなせるわけじゃない、それでもいいなら来てくれ!」
なおも必死な真にナナは優しく答えた。
「構わないわ、お金がないならたまには食材持ち込んであげるわ。それの調理とかも頼むからよろしくね」
「異世界食材持ってきてくれるとかスゲーテンション上がる、こっちこそよろしく!」
握手を交わす二人。この瞬間二人の間で絆が生まれた。“食”がつないだ友情とでも名付けようか。二人の中で“食”はとても大切なもの、その縁で結ばれたのだ。今は利害関係かも知れないが、この絆は強固なものとなっていくだろう。
あと1話で”みんなでごはん”のくだりは終わります。
ここまでお付き合いしてくださった皆さまありがとうございます。
そのお礼の意味も込めまして明日は2話投稿します。
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ではでは~




