みんなでごはんその6
そんな真の心情を表情から読んだのかナナはさらにたたみかける。
「言っとくけど本当に傷んでないわよ。火蜥蜴の卵はそもそも、その位の熱を帯びてるのよ、貸してみなさい」
ナナは卵をひったくり台所に引き返す、ナナの剣幕に負け真も後に続く。
「見てなさい、鶏の卵しか見たことないなら驚くわよ」
流し横の調理スペース、卵を置き楕円の上部を抑え、包丁の峰で叩く。金づちで釘を打つ音と間違えそうな硬質感のある音を立てひびが入る。それを円を描くように一周。この作業、卵を割っているのだが横で見ているにもかかわらず、鶏のやわらか殻の卵しか扱ったことのない真には、とてもそうには映らなかった。
“それ、本当に食品?”どうしても疑ってしまう。
せっかくの好意だが、異世界の食材は日本という温室で暮らす自身には野生みに溢れすぎて胃が受け付けなかったらどうしよう。でも食材なら口にしたい、こんなチャンス今後二度とないかも知れないし。
迷いはあるがこの男、こと“食”に関するなら珍味と聞けばたとえ毒があっても口にしてしまうのではと思わせるだけのいらない信頼感を持てる。なんだかんだと理由をつけたとして、最終的には口にするのだろう。いつかその行動を後悔する日が来なければよいのだが…。
「いよいよご対面よ、しつこいけれども絶っ対驚くから」
自身が初めてこの卵を食したときを浮かべ、同じく食にこだわりがありそうな真にも感動してほしい。共感してほしい、思いを込め卵を開ける。
上部をつかみひねる、ひび入りの硬質な殻はキャップを開けるようにとれる。もちろん殻が内容物に混入するという失態は犯してはいない。そして現れた中身、
ナナは傍らにいる真を見上げ、表情を窺う。
真は、大きく目を見開き、キラキラした目と表現できるその目は一心にその中身を見つめていた。その目に映るは、
オレンジ色の特大な黄身、その周り、本来あるはずの液状の白身は、まるで温泉卵、白い半熟になり黄身の周囲に浮かんでいた。しかし黄身はどう見ても生、表面の膜が白くなることなく、たたずんでいる。TKG(卵かけごはん)は好きだが、生の白身は苦手という人にぜひとも進めたい一品がそこにあった。
痛んでいるなんてとんでもない、生と半熟の美味しいとこどりの卵ではないか。真は自身の浅慮な発言を恥じた。




