2人の冒険者
剣も魔法も存在するとある世界で二人の冒険者が窮地に立たされていた。
「ナナちゃんやばいよ!死んじゃうよ私たち!」
「シロエ落ち着いて、なんてことないわよ今までだって二人で乗り越えてきたでしょ」
自身の身の丈以上の大剣をわきに置く小柄なビキニアーマー少女は全身を鎧で固めた大柄な女性をなだめる。彼女たちは火蜥蜴の巣に潜り込んでいた。目的は卵だ。
繁殖力の低い火蜥蜴は一個体年間1~2個の卵を産む。その卵はとても美味だ。鶏の卵と比べるまでもなく濃厚で栄養満点であり薬にもなる。つまり高価な品なのだ。繁殖期の今、二人は路銀を得るためにギルドでクエストを受け巣に潜り込み卵を盗み出したところまではうまくいったのだが…。
「聞いてないわよ、いったいなん匹いるのよあいつら」
悪態をつきナナは身を潜めている横穴から覗き見ると、
岩肌を確認できない数の赤いうろこたちが地面を埋め尽くしていた。数十どころではない百以上いるのではないだろうか。
現状、辺境の山奥の洞窟、たまたま他の冒険者がやってきて協力できるなんて幸運はない。自身の、いや二人の力で乗り切るしかない。
唯一のツキは横穴を発見できたこと、また高所にあるため地を這う火蜥蜴には発見しにくい点だろうか。
「やっぱり騙されたんだよ~、だっておかしいもん。おいしすぎるクエストだったし~」
半べそをかきシロエがぐずる。
「間違いなくそうでしょうね」
大きな妹をあやす心持で返答し、厄介なことになったとナナは顔をしかめた。
火蜥蜴は単体では決して強力なモンスターではない。30~50㎝ほどで大きいわけでもなく力もスピードも並みの冒険者なら難なく対処できる程度だ。しかし、集団になると話は変わる。火蜥蜴の字にあるように奴らは火を噴く。この火が厄介なのだ。なぜか奴らは集団になると一匹一匹が噴く火力が上がるのだ。数匹ならランプの明かり程度の可愛いものだがあれだけの数なら洞窟内を溶岩地帯に変えられるだけの火力が出せるのではないかと推察できる。
シロエの言であったがはめられたようだ。二人でこなせるレベルのクエストではないし採集クエストではなく殲滅クエストが妥当なところだろう。大方私たち二人を犠牲にして中央のギルドに殲滅クエストを発注する腹積もりなのだろう。犠牲が出なければ中央は動かないのだから。
私たちは撒餌なのだろう。これだから田舎は好かない、独自の閉鎖的コミュニティーからなる排他的雰囲気、そこからくるよそ者への仕打ち。奴らは自分たちさえ安全ならばそれでいいのだろう。まさか地方とはいえギルドまでがこんな仕打ちをしてくるとは田舎おそるべしだ。
「どうするべきかしら」
ナナは現状を打破すべく周りを見渡した。
横穴から出る訳にはいかない。あの数を相手には敗北は必定。ならば逆、進むしかない。
逃げる途中に見つけたこの横穴だがまだ奥まで続いている。奥は洞窟本道と違い日の光が届かないのか暗く先が見通せないがもしかしたら出口があるかもしれない。
だが奥には火蜥蜴がいるかもしれない。しかしここにいてもいつかは見つかるだろう。長期戦は不利、体力があるうちに行動に出るべきだ。
「シロエ動けるわね、行くわよ」
うう~っと鼻をすすりながらシロエは同意し、凸凹コンビはくらい横穴奥へと歩を進め始めた。