オープニング
寒い。それに虫の声がうるさい。
私は草むらの中で目を覚ました。草むらにいると分かったのは、湿気に混じって青草の匂いが鼻をくすぐったから。辺りは真っ暗で、わずかな月明かりが葉っぱに遮られながらあちこちに伸びている。
寝転がっているせいで見えないけど、車が近くを走っている。音だけでそう私は判断する。
上半身を起こすと、今いるのは想像していたほど森の中ではないと分かる。どこかの道路の脇の雑木林らしい。
どうしてこんなところにいるんだっけ。ちぐはぐな思考を組み合わせる。どこかへ向かおうとしている途中だったはず。
数メートル離れた道で、車たちが競うように過ぎてゆく。
そうだ交差点だ。T町六丁目の交差点。そこに行きたいのだ。
私は通りに向かって足を動かす。行きたい場所は分かっても現在地がはっきりしない。とりあえずなにか目印はないだろうか。
一歩踏み出すごとに疑問が浮かぶ。私はなぜここにいたのだろう。拉致でもされたのだろうか。なにかの事件に巻き込まれた?
ようやく木々を抜けたとき、四つのものが目に飛び込んできた。ぽっかり口を開けたトンネルと見事な半月。少し高台になっているのか眼下に広がる街並みと、火葬場と書かれたガランとした建物。
ここは町はずれの山の中。私は怖くなって走り出した。
とにかく行かなくては。あれを確かめないと……。