表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

幕間[龍の首の珠]

 食欲の秋。暖かな日差しの中、涼やかな風を乗せてやってくる魅惑の季節。

 この湯煙湧きたつ温泉街にも素晴らしき秋の味覚は訪れている。

 一泊二日の温泉旅行。女三人姦しく、おもいっきり両手足を伸ばしにやってきた。


「あぁ~いいお湯だわぁ~」


「もう、誰もいないからって遠慮なさすぎよ」


「だーって誰もいないんだもん。たまにはいいでしょ、羽を伸ばしにきたんだから」


 相変わらずかぐやさんは天真爛漫で温泉旅行を満喫している。いつもしゃきっとしているお鶴さんも、今日ばかりは肩を落としてくつろいでいた。

 かくいう私もこの二日はしっかり休ませてもらおう。毎日勉強ばかりの日々でさすがに疲れた。もちろん苦であるというわけではないけれど、根を詰め過ぎても体によくない。引き締める時は引き締め、緩める時は緩めるのだ。


 それにしても、だ。

 かぐやさんのなんというビューティフルバディか。私はちんちくりんで胸だけ大きいという不格好な姿なもんだから、自分自身の体を美しいだとか魅力的だとは思わない。

 だけど、顔立ちも整っていて、全身はすらっとしているのに大きな胸とお尻に違和感を感じない完璧なバランス。加えてこの長くてしっとりとした黒髪。神は二物も三物も与えている。羨ましい!


 そして何よりお鶴さん。普段はきっちりと着物を着こんでいるからわからないけど、この人はなんというか、もはや暴力!

 それも圧倒的暴力!

 すらりと伸びた長い脚。透き通るような白い肌。夕焼けのような優しい朱色の髪。男心をくすぐる母性的な笑顔。そしてその胸とお尻。

 かぐやさんは美しいって感じだけど、お鶴さんは直球でエロい。弩エロい!


「どうしたの鈴。そんなところにいないで隣に来てよ。ちゃあんと温泉卵を用意してきたんだから。一緒に食べましょ。醤油もあるし熱燗もあるわよ。この季節だけ造られる特産の芋焼酎なんだから。水面に浮かぶお盆の上にとっくりとおちょこを乗せるのがオツなのよ」


「いや、それはいいんですけど。お二人の体がエロいと思いまして」


「えー? 何言ってるの。鈴だって超エロいじゃん」


「いや私は不格好なだけですよぅ」


「そーんな事ないって。今のままでも需要あるある。でも鈴は育ちざかりだしもっともーっと綺麗になるわよ。きっと私より慎重も伸びてエロカッコイイ女になるわ。姉御肌的な方向で綺麗エロカッコイイ感じになると思うの」


「そうねぇ。鈴ちゃんは子供達と遊ぶ時もすっごく頼りになるお姉さんだもの。賢いし気立てもいいししっかり物だし。容姿も大事かもしれないけど、一番重要なのはそんなところだと思うの」


「そ、そうでしょうか。ありがとうございます。そう言われると自信がでてきます」


 温泉卵に手を伸ばそうとすると、酔っ払いのかぐやさんに胸を揉まれそうになったから逃げたけど捕まってもみくちゃにされた。酔ったお鶴さんはそんなかぐやさんを捕まえてヘッドロックをかけている。この二人、お酒を飲ませたらダメだ!


 実家にいた頃は容姿の事で悩んでいたけれど、幸いな事に同じような人がここに二人もいるし偏見もない。私とは違って自分に自信を持っているから物怖じもしないし胸を張って堂々と立っている。

 そんなかぐやさんを見ていると、なんだか自然と勇気が湧いてきた。常識に囚われている自分がなんだかバカらしくなってきて、周りの目を気にするだけ無駄でしかない。大事なのは自分がどう考えるかという事だと教えてくれる。そう思えるようになってきていた。


 ぽかぽかの体をゆっくりと冷やしながら街を見て歩き、馴染みの旅館へ向かっていく。かぐやさんのおじいさんが元気だった頃におばあさんとよく来ていたという部屋を選んでいた。窓の外は悠然と流れる川の流れに、色づき始めた紅葉が映える。まさに絶景。さらさらと流れる水の音は日々多忙に暮れる日常を洗い流してくれているようだ。


 おじいさんは高名な竹細工職人。きっとこういう自然の姿を眺めたり、くつろいだ心で仕事に向かっていたからこそ、素晴らしい作品や前衛的な芸術を生み出し続けてこられたのだろう。

 おばあさんも一緒に来て欲しかったけど、誰かが家の留守をしなければならないと言って私達を送り出した。かぐやさんが強く説得しなかったのは、ここが二人の想いでの地で、きっとおじいさんの事を思い出してしまうからだろう。

 亡くなってからも想いが途切れる事はないのだろうけど、あまりに強く想いすぎると、人はどこかへ旅をしたくなるものだ。傍にいたくなるものなのだ。


 料理が運ばれてくるよりも先に一つの荷物が手元に届いた。

 桃太郎からかぐやさん宛ての贈物。

 こういう時くらい空気読んで欲しいものだわ、と言いながら、その表情はとても楽しそう。


 箱の中身は大きな黒い玉と手紙が一通。

 内容は鬼退治の結末と玉の詳細が書かれていた。

 なんとまぁロマンチックな結末だこと。人に憑いた鬼を斬ってお姫様と結ばれる。短い文章で綴られているだけなのに、赤面してしまう程、王道のラブストーリー。全女子憧れの刹那的物語。


 続いて龍の首の珠。

 黒い龍の顎の下についているという珠でとっても珍しいらしい。

 それしか説明が書いていない。それほど貴重で珍しいものなら、何か凄い力を秘めていそうなのは、その黒い玉の表面がつるつるしてない事からうかがえる。

 光を吸収しているのか球体特有の光の反射をしていない。まるで黒い円が箱の中にあるような錯覚すら覚える。だから二次元的に見えるし、触ると飲み込まれてしまいそうな妖気すら感じた。


「これ、確かに凄い雰囲気ですけど、触るとそのまま異次元に飲み込まれそうな危うさを感じます」


「布越しなら大丈夫みたいだけど、素手で触るのは少し勇気がいるわね」


「桃からの贈り物なんだから大丈夫だって。ほららららららららららららららららら」


「かぐやさん!?」


 なんの気なしに持ち上げようとしたかぐやさんの手と声が震えて変な声色になってる!

 とりあえず危険な物ではないようだけど、人体に何かしら影響を与える物体なのは間違いない。

 かぐやさん曰く、なんかぶわっとした、って言ってるけど、本当に触って大丈夫なのだろうか。触ってみるか。いややっぱり……うーんどうしよう。


 逡巡している間にお鶴さんが撫でるように触れた。かぐやさんと同じように、ひらがなを一文字連呼する。ナニコレ。触るとバカになる珠なの?

 命に別状はないようだし、私だけ触らないってのもばつが悪いし。えーいままよ。


 ななななななななななななななななななななななななな。


 なんか、ぶわっとした!

 これと似た感触を以前経験した事がある。

 兄が骨董市で手に入れた大きな水晶を触った時も、こんな感じでぶわっとした。あの時はさわった指先が吸い付くように水晶に引っ付いて、腕を伝ってあったかいものが体の真ん中に注がれるような感じだったけど、これはそんなもんじゃない。

 全身にぶわっとしたものが押し寄せてきて、体の中の悪い物が外へ吐き出されたようなそんな感覚がある。


 そういえば少し体が軽いような気がするし、ほろ酔いの感覚もなくなってすっきりしていた。温泉街特有の気圧の変化で少し頭痛がしていたけどそれもなくなっている。

 凄い。長年の女性の悩みを一発解決できるのでは。特に男性に理解されない生理痛なんかをこれで解消できたらまさに最強。

 病を治すとかは無理だろうけど、これがあれば諸症状を緩和できるかもしれない。

 商人気質だろうか、やっぱりこういう考えに至る自分は良い意味で真面目なのかもしれない。そう思うのはかぐやさんが私と違って自由奔放だからだろう。

 なんせ彼女の第一声は――――――。


「これ凄いわね。これさえあれば二日酔い知らずだわ! 美味しい食べ物に美味しいお酒はかかせないものね!」


 そっちに行くか。とも思ったけど、温泉で襲われた記憶が蘇ると、握り拳を作って私も叫んだ。


「これで酔っ払いに襲われずに済みます! ありがとうございます桃太郎さん!」


 その後、酔っ払いにもみくちゃにされた。

※お酒は二十歳になってから!

 二十歳になってからも、適量は薬。過剰は毒。気を付けようね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ