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幕間 [蓬莱の玉の枝]

 夏の自由研究。そんな題材でかぐやさんは子供達にある一本の木を観察させる事にした。それは超一流の職人が作ったかのような盆栽の世話。

 根っこは銀。枝と幹は金。実は真珠。

 蓬莱の玉の枝と呼ばれるその盆栽のようなものは庭に植えられ、毎日かかさず水を与えられ、時には粉々にした貝の粉末を巻いて栄養をつけさせた。十日ほど経って今だ一ミリも成長がみられない。熟していないのか実も落ちない。というか手でもごうとしても取れない。


「まぁわかってたけど偽物よね」


 ですよね。とだけ相槌を打って遠い目になる。そんな大人の事情を知らない子供達は、全然育たねぇー、と言ってどうすれば成長するかあれこれ思案を巡らせていた。

 考えさせるという事や違った考え方を持つ者同士が議論し合う事は非常に有意義で、社会に出て必ず役に立つ経験をさせよう、というのが一応の趣旨ではあるが、偽物の木を植えてあーだこーだ言わせている自分に少し罪悪感が芽生えている。


 これをもってきた皇子はいけしゃあしゃあと本物だと言い張っているがそんなわけない。本物を見た事のない我々は最初はまさか本物をよこしたかとも思ったけど、かぐやさんの機転で木なら植えれば成長するだろうと言い放ち今に至る。

 当然大きくなったりなんかしない。それでも凄いのは皇子の座った肝。偽物を本物と言い張っておきながら三日置きに来てはまだ結論は出ないのかと催促してきた。半年は見てもらわないと困ると伝えたのだが聞く耳もたず。

 嘘を吐いたら鼻が伸びる人形みたいな顔をした生理的に受け付けない皇子の高慢ちきの鼻っ柱を叩き折ってやりたいと愚痴を聞かされるこっちの身にもなって欲しい。


 そんな日々に終止符が打たれる時が来た。

 駿河を旅している桃太郎さんから荷物と手紙が送られてきたのだ。中身は銀色の棒っきれと真珠。それから見事な漆塗りの応量器が五枚。駿河産しらすと桜エビの詰め合わせ。

 晩御飯は海鮮丼だとはしゃぎまくるかぐやさん。

 手紙には地獄で成っていた蓬莱の玉の枝を閻魔様から分けてもらい、浄土では玉虫姫から友達の仲直りのお礼にと仏の御石の鉢を貰ったと書いてある。

 鬼退治に……行ってるんだよね…………?

 呆然としている私の横でかぐやさんは大爆笑。破天荒かよッ、って叫んで腹を抱えて悶えていた。


「まさか鬼を探しに地獄まで行ってるなんて思ってもみなかったわ。しかもなんで浄土まで行ってんの。死んじゃってないとは思うけど本当、桃って面白いわ」


「手紙には地獄で会った子を浄土まで連れて行って仲直りさせたそうですけど」


「ロマンスかよッ! ロミオとジュリエットかよッ!」


 だいぶ話違うと思うけど。そんなツッコミをまたずまたも大爆笑。ほんと無事ならいいけど、話がぶっ飛びすぎて心配を通り越して信じられないというのが本音。

 笑い終えてやっとかぐやさんが起き上がると思うと、そのままダッシュで子供達を呼び集めた。銀色の棒きれを持って庭へ行くと盆栽の反対側の花壇に棒きれを土に突き刺してこれも同様に観察するように言いつける。

 彼女曰く、あれが本物ならさし木をしておけば根っこが生えて大きくなると言うが、枝を土にさしてそこから根っこが生えてくるとは到底思えない。彼女の自信満々な姿とは正反対にマジかって顔になるのも無理ないでしょ。


 そりゃあそれが本物であなたの言っている事が現実になるならば、いけ好かないピノ〇オの鼻骨をぶち折ってやれるし、植えてるだけで真珠やら金やら銀が生えてくれば末代まで安泰だろうけどさすがにそんなうまくいくわけないと思う。


 それがどうでしょう。大切に育てられた木の枝は銀の根を張り、小さいながらに真珠の実をつけ始めたではありませんか。これには皇子の鼻もぽっきり。観念したのかもう二度と姿を見せなかった。


 それから大きくなぁれ大きくなぁれと喜々として水やりに励んでいるかぐやさんの姿は、なんかもう欲にまみれて残念な感じ。不思議なのは御伽噺なんかだと、そういう下品な心で接しているならば枯れていきそうなものなのだけどそんな気配は全然ない。背が低い木ではあるが立派に育ち小さいながらに真珠の実も増え続けている。


「あの、かぐやさん。大きく育ててどうするんですか」


「ん? 言っとくけど独占しようなんて考えてないわよ。そもそもこんな金の生る木なんて個人で持っておくものじゃないしね。ある程度大きくしたら池田氏にお願いして引き取ってもらうわ。そのかわり町の人の年貢を少し軽くしてもらえないか聞いてみるの。でもあんまり小さいままだとすぐ枯れちゃうかもだから、ある程度大きく育てておかないとね」


「――――――ッ! すみませんでしたっ!」


「え、ちょ、なにいきなりっ!?」


 自分の汚い心が恥ずかしい。一瞬でもかぐやさんをそんな風に見てしまった自分が情けなくて合わせる顔がない。泣きべそかいて謝りながら同時に感謝の言葉をこぼす私に、ほんとにしょうがないんだから、と言って苦笑い。

 本当に彼女の元へ来て良かった。こんな立派の心を持つ女性に出会えて私は本当に縁に恵まれている。これまでの、そしてこれからの出会いと別れを大事にしよう。心の中で覚悟は確かに固まった。


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