想器 魔剣戯具 ~お土産物屋さんで買った剣がガチの魔剣だった~
「我が名は魔剣ガイフェリュード。力を司る魔剣である」
「いや、お前、土産物屋とかで売ってるおもちゃの魔剣だろ。っていうかあれ魔剣っていうのか」
状況をざっくり説明しよう。
友達と宿題やってたら、なんかお土産物屋で買った剣のおもちゃがしゃべりだしたのだ。
これだとよくわからないと思われるので、もう少し細かく説明させていただきたい。
高校生であるところの「佐藤 大輝」は、一週間ほど前に出された数学の課題に頭を悩ませていた。
問題自体かなり難しく、量も多い。
それもそのはずで、連休が続くために特別に出された、一週間分の課題だったのである。
だが、大輝は連休中に遊びに遊びまくり、この課題に指一本触れてこなかった。
当然全く終わっていないのだが、恐ろしいことに明日からは授業が始まってしまう。
しかも悪いことに、数学の授業は一時限目。
時間的猶予はほぼない。
そこで、大輝は必死に考えた。
何かうまい方法はないか。
宿題をやらなくて済む方法か、あるいは一瞬で宿題が終わるような妙案は。
二十秒ぐらい考えたが、まったく何も浮かばなかった。
徹夜でやるしかないかと諦めかけた時、閃きが走る。
一人でやると絶対途中でゲームやっちゃうから、友達を誘おう。
そこで声をかけたのが、友人の「鈴木 翔」だった。
あわよくば写させてもらおうと思って連絡を取ったところ。
「一文字も書いてないわ」
という返事が返ってきた。
そんなことだろうと思っていたので特に落胆もせず、結局大輝と翔は二人で課題をやっつけることにしたのである。
大輝の部屋に集まり、さぁ、始めようか、となったところで。
突然、魔剣が話しかけてきたわけである。
観光地とかのお土産物屋さんに並んでいる、なんかドラゴンとかガラス玉っぽいのがはまった、あのおもちゃの剣が、だ。
「いやいやいやいや! 違う違う! 要点はそこじゃない! なんで喋ってんの!? え?! しゃべってんの!? 剣が!?」
「間違いなく話している。といか、私のような魔剣をスマホのストラップにつけるのはどうかと思うぞ」
魔剣ガイフェリュードと名乗るおもちゃの剣は、大輝のスマホストラップになっていた。
正確には、スマホカバーのストラップである。
「画面が傷ついたらどうするというのか」
「そのへんは、アレだ。フィルターとか張ってるから。って、何がだよ! 違うよ! そういうアレじゃねぇよ! もっと重要なことがあるだろ!」
「私の名は魔剣ガイフェリュード」
「それはもう聞いたよ!」
「佐藤大輝よ。私の持ち主であるお前に、力を与えよう」
「な、なんで俺の名前を!」
「私が買われて一週間以上経っているのだぞ。そのぐらいはさすがにわかる」
言われてみればその通りだった。
自称魔剣であるガイフェリュードを買ったのは、少し前に行った臨海学校でのことである。
海というシチュエーションにテンションが上がりまくった大輝は、勢いのままお土産物屋さんに並んでいた魔剣を購入したのだ。
普通なら後で後悔するパターンなのだろうが、大輝はこれを案外気に入ってしまった。
以来、と言っても一週間程度だが、それをスマホにつるしているのである。
「スマホは個人情報の塊だからな。そこに吊るされて居れば嫌でも色々なことが分かる。お前のタイプとか」
「っさいっ! っしゃっ! 個人情報をみだりに振りまこうとするなっ! っていうか何なんだお前!」
「力を司る魔剣ガイフェリュードである」
「聞いた! そういうことじゃねぇよ! なんっていうか、もっとこうだなっ!」
「なぁ、大輝。お前、さっきから何一人でわめいてるんだ?」
不思議そうな顔の翔に声をかけられ、大輝はハッとした表情になる。
「おま、まさか、この声って俺だけに聞こえて」
「いや、ガイフェリュードの声は俺にもばっちり聞こえてるけども」
「聞こえてるのかよ!! だったらなんだよ今のセリフわよぉ!」
「お約束かと思って」
翔はまったくの真顔でのたまった。
確かにそういう「俺だけにしか聞こえてない?」系の奴はお約束だ。
「ていうかもっと驚けよ! なんで冷静なんだよ!」
「くそほど驚いてるって。見ろよこれ。コーラのペットボトルバッキバキだわ。飲み終わっててよかったっつーの」
そういって翔が持ち上げて見せたのは、握り潰されたペットボトルであった。
持っている手は、若干震えている。
ただ、表情はといえば、いつもと全く変わらないものであった。
「ポーカーフェイスっ! 意味ねぇよ今はもっと表情と声に出して驚いていい場面だろ!」
「もう、驚きすぎちゃってさ」
「そっちの感じか。まぁ、あれか。そういうこともあるか。ショックがね」
「そうそう。デカすぎてね。ショックが」
「まぁまぁ、じゃあ、それはいいとしてよ。こっちだよ! 魔剣? なんつったっけ? 魔剣、お前、なっ、なんなの? どういう、あれなの?!」
「何から聞いていいかもわかるまい。順を追って説明しよう」
ガイフェリュードにそういわれ、大輝と翔は顔を見合わせた。
「どうする?」
「聞くだけ聞いてみればいいんじゃない?」
二人のやり取りを聞いて、ガイフェリュードはゆっくりと話し始める。
「人の想いというのは、恐ろしい力を秘めている。時に奇跡と呼ばれる超常現象を起こすほどに。私はそういった力が発露したものの一形態だ」
「はぁ」
「噛み砕いでわかりやすく説明すると、膨大な数の中学二年生ぐらいの妄想が凝り固まり、マジで現実の世界に現れちゃった感じのヤツである」
「わかりやすぅい」
「中学二年生の妄想とはいえ、人の想いとは強大なものだ。ましてそれが依り代。つまり、わかりやすいビジュアルのアイテムがあるとなれば、それはより強固なものとなる」
「そのわかりやすいアイテムっていうのが、お土産屋さんで売ってる魔剣ってこと?」
「その通りだ」
大輝はわかりやすく顔をしかめた。
言わんとすることはわかる。
大輝もその昔は「くっ! 持ってくれ、俺の右腕! あと一発だけなんだっ!」とか言ってた口だ。
あのエネルギーを凝縮してそれっぽいものに封じ込めれば、なんかいろいろヤバそうな感じはする。
とはいえ、実際に目の当たりにするとなると、話は別だ。
困惑する大輝を他所に、ガイフェリュードは更に話をつづけた。
「歴史上、私のような魔剣はごくたまに生まれている。それが正史に残っていないのは、まぁ、何やかんや色々あるからだ」
「なんだよ何やかんやって」
「ケースバイケースで状況が違うから一概に言えんのだ。とにかく、何やかんやあって残っていないのだけは間違いない。聞いたことがあるか? 私のような存在のことを」
「ある?」
「ない」
大輝と翔は、顔を見合わせて確認し合った。
実際、どちらも喋るアイテム的なものの話など、聞いたこともない。
「場合によって、それはなんか仮面だったり、ベルトだったり、刀だったりするのだが、まぁ、その辺はやっぱりケースバイケースだから端に置いておくとする」
「ベルトって気になるけど」
「とにかく。私のような魔剣は極まれに生まれるのだ。お土産物屋さんに並んでいるキーホルダーで言うと、大体三十万個に一個ぐらいの確率で魔剣になっていることがある」
「さんじゅう。それは」
多いのか少ないのかわかんねぇ。
大輝と翔の思考がリンクした。
「どう、どうなのその、三十万って。全体としては」
「なんか、割とありそうな数字の気はするけど。結構魔剣ありそうだな、それだと」
「その辺の正確な数はちょっと私も把握していない」
「そんな曖昧な」
「お前達だって人口毎の議員定数とかわからないだろう。似たようなものだ」
どうなのかよくわからなかったが、そうなのだというからにはそうなのだろう。
ガイフェリュードの話は続く。
「魔剣は、契約者に力を授ける。そうすることで、契約者と共にあることができるのだ」
「え、契約者って俺なの。やだよ」
「ヤダも何もない。もう売買契約がなされているのだ。レシート貰っただろ」
「魔剣との契約の証がレシートとかヤダよっ! え!? っていうかもう、あれなの!? 契約かわされた感じなの!?」
「だから、レシートを貰っただろう」
「何レシートって! ヤダはそんな契約!」
「すげぇ、大輝って魔剣の契約者だったのかよ」
「もうしたことになってるの!? っていうか、なんで急に話し始めたんだよ! 何か理由でもあんのかよ!」
「そのことか。それはな」
ガイフェリュードの重々しい声に、大輝と翔は黙って続きを待った。
そういえばガイフェリュードの声って渋い系の有名男性声優みたいだな。
などと思いながらも、あえて口に出さなかった。
「タイミングを計っていたら話しそびれたのだ」
「もっとうまいタイミングあっただろうがよぉおお!!!」
「だから、話しそびれたのだといっただろう」
「っていうかさ、大輝」
急に真剣な声で、翔が声を上げた。
「実はさ。お前があのおもちゃ買った時、俺も木刀買ってたじゃん」
「ああ。買ってたな。って、え? うそ、まさか」
「そうなんだよ、な。実はさ。あの木刀、別に何にもなかったんだよ」
「なかったのかよっ! なんか思わせぶりな感じで言うなよ!! っていうかなんで今言った!?」
「お約束かなぁーって」
「うむ、あの木刀は間違いなく普通の木刀だぞ」
「うるせぇ! この、なんだ、魔剣! なんだっけ名前! 覚えにくいんだよクソ!!」
結局、大輝はこの後、ボケ倒すガイフェリュードと翔に散々に翻弄され続けた。
そして。
肝心の宿題は全く手つかずのまま。
二人は補習を受けることになったのであった。
いつもの(作者を知っている読者が抱くであろう感想を先取り)