深夜のコンビニでバイトを始めたが最近気になることができた
深夜のコンビニでバイトをやってる。
今年の始めからなのでもう半年以上になるかな。
昼間は大学があるからバイトはもっぱら夜。それも金曜から日曜の深夜のシフトが多い。この時間帯は基本一人なので安全面を考慮して男でないと駄目のようだ。
コンビニは大きな国道沿いに立っているんで、深夜でも客は結構いる。
よくフードコーナーで長距離トラックやタクシーのドライバーが夜食を摂ったり、仮眠したりしていた。
それはそれで商売繁盛で喜ばしいんだけど、ほぼ100%、食べた後のゴミを残していくんだ。
何故だろうかね?
ま、お客様なので文句を言わず、ある程度たまったら黙って片付ける。
最初は、子供か!とも思ったけど、慣れれば日課のようなものだから気にならなくなった。
その代わり……
(お、いる)
窓越しにコンビニの駐車場にいるたむろっている若者たちを見て僕は思った。
見るからにヤンキーですと言う風采のグループ。
男が三人、女が二人。高校生か、既に働いているか。恐らくは僕よりは年下だろう。
きっと例のところに行くつもりなんだな、と僕はフードコーナーに置かれたカップ麺の残り汁をバケツにあけながら思った。
バイトをするようになって僕は深夜のコンビニにはざっくり三種類の客層があるのに気がついた。
一つ目と二つ目はさっき少し話したトラックとタクシーの運ちゃんたち。そして、最後の三つ目のグループが彼らのような若者グループだ。
最初、僕にはこの三つ目のグループが不思議だった。
彼らは夜の11時過ぎぐらいに現れて、ギャアギャア騒いでいたと思うと何処かへと消えていく。そして、二時間程するとまたコンビニに戻ってくるのだ。それも大抵、行きとは真逆でむっつりと押し黙っていたり、青い顔をしてコンビニに飛び込んできた。
一体彼らはどこで何をしているのだろう、と思っていたが、ある時、店長が僕のその疑問を解き明かしてくれた。
『ほら、あの小道。登り坂が有るだろ。
あれをずっと登ると廃ホテルがあるんだ。
で、そのホテルに出るらしい。
なにがでるって?
幽霊に決まってるだろ』
駐車場の横の集積場にゴミを運んでる時、店長がそう言った。
店長が指さす方を見ると確かに疎らな木々の真ん中を舗装されていない茶色の小道が走っているのが見えた。
つまり、第3のグループは心霊スポットに肝試しに来た若者たちだったのだ。
コンビニの窓越しに見ていると若者グループは赤と青の車に分譲すると、例の坂道を上っていった。
時計に目をやると丁度零時だった。
そして、午前2時半ごろ。
ブレーキの軋む音に目をやると駐車場に赤と青の車が止まっていた。さっきの若者たちが帰ってきたのだ。車からバラバラと五人の男女が降りて来た。
若者たちはそのままフードコーナーに逃げこむ。二人の女は泣きじゃくっていた。
「ヤバイ、ヤバイ、まじ、ヤバイ」
ソバージュの女がうわ言のように叫んでいた。
何も買わずにフードコーナーを占拠して騒ぐ連中を内心苦々しく思いながら、何気なく外を見た僕は首をかしげた。
目を凝らし見詰める。
赤い車の後部座席に誰かいた。
角度的に後ろ姿しか見えなかったが長い髪から女のように思えた。
僕はフードコーナーに視線を移す。男三人と女二人。全員いる。
もう一度、僕は車の方をみる。
やはり、女が一人座っていた。
(数が増えた?)
ドン
僕は少し飛び上がった。振り向くと男がペットボトルを置いて、僕を見ていた。
僕は慌ててレジに向かう。
男は無言で釣り銭を受けとると外に出ていった。残りの四人も後に続く。
青い車に男一人と女二人。赤い車、長い髪の女が後部座席に座っている、には男が二人。
二人とも前席に乗り込んだ。男たちは後部座席の女を無視しているようだった。
あるいは見えないか?
二台の車は意味もなく大きな排気音を残して走り去った。
車を見送りながら、僕はなんとも嫌な気持ちになった。
きっと自分の思い違いなのだろう。
車から降りてこなかったから数え損なったのだろうか。それとも後からどこかで乗ったのか?
でも、乗るってどこで?
これ以上考えると怖くなりそうだったので僕は考えるのを止めた。
それから何週間か後の話だ。
(また、来た)
と、僕は心の中で呟いた。
今度はバイクに乗った連中が四人。
この間とは違うグループだが、目的は同じ肝試しなのだろう。
他の連中と同じように駐車場で一頻り騒いでから坂を上っていったが、一時間もしない内に戻ってきた。
思ったよりずっと早い帰還だ。
彼らは血相を変えていたがコンビニには入っては来ず、駐車場で固まって何か話し込んでいた。
そこで僕は見てしまった。
彼らのバイクの一台に女が座っているのを。
腰まで届きそうな長い髪に白い服の女がうつ向いた状態で一台のバイクの後ろに静かに座っていた。
この前の事があったので注意して見ていた。だから、今度は数え間違えはしていない。彼らは行きは間違いなく四人だった。しかも、女はいなかった。間違いない。
だとしたらあの女は……
結局、バイクの連中は見知らぬ女をバイクの後ろに乗せたまま立ち去った。
あの後、彼らがどうなったかはわからない。
10分ほどしてからコンビニの前を救急車がサイレンを鳴らしながら通りすぎたが、彼らと関係があるのか、僕は知らない。
別に知りたいとも思わない。
きっと気にしたら負けだと思うから。
気にしたら駄目だ。
気にしたら駄目だとわかっている。だけど、肝試しらしきグループが来るとどうしても人数をチェックしてしまう自分がいる。
まめにチェックしたお掛けで肝試しから帰って来ても必ずしも数が増える訳ではないとわかった。せいぜい五回に一回ぐらいだ。
気になることもある。ついてくるのはいつも髪の長い女と言うことだ。
……いや、気にならない。
気にならない。
そうとも。
気のせいなんだから、気になんかならない。
気のせいなんだから。
気にしたら駄目だ。
気にしたら駄目なんだ。
……一ヶ月前に店長から聞いた。例の廃ホテルが取り壊されたって事を。
それ以来、肝試しをする連中はすっかりいなくなった。
だから、安心していた。
安心していたんだ。
なのに……
ああ、何てこった。コンビニの駐車場の入り口に立ってるあの女は一体なんなんだ!
ずっとうつ向いたまま、立っている女。
一体何時から立っている?
何でじっとつっ立っているんだ。
いや、じっとはしていないかも?
さっきより少し近づいてないか?
いや、気のせいだ。
気にしたら駄目だ。
気のせいなんだから
気にしては、
気にしては
だ め だ
2018/08/22 初稿