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欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
買付
7/40

7 これが対価?

 なんにせよ清潔なベッドで目覚めるというのは幸せなことだ、ましてや横に美女が付き添っていてくれるなんて。

まるで小説の主人公みたいだ。だってベッドの足元側で横顔をこちらに見せたままうつ伏せに寝ているんだよ、たぶん看病疲れで。こんなことなかなか経験できるものじゃないよね。私は美女の寝顔を堪能した。

 まあ実際のところは、旅行から帰ったら留守番の弟が男を連れ込んで怪しい事をしていたので散々説教して疲れたよちょっと休憩するね私。といったところだったのだが。

 私が目覚めたことににすぐに気が付いた彼女に、軽めの食事をサービスしてもらいながらのやりとりでそんなところを確認していった。

 ちなみに弟リチャードは、現在反省部屋に入れられているらしい。

 「子供の頃から何度も入っているのに全く学習しないんだから」とのことだった。

 「ごめんなさいね、こんな無茶をするなんて本当に困ったものだわ」

 何度目かの謝罪の言葉にわたしもつい「もういいですよこうして無事だったんですから」と応えると。

 「そう言ってもらえるとありがたいのだけれどね」

 そして彼女は私の前に紙の束を差し出した。

 「これがあなた達の行ったことの成果よ」

 十枚ほどの真新しい浮世絵だった。

 「こんな高価なものを出すなんて、あの子もなかなかたいしたものだわ」

 「はあ、そうなんですか」

 「そりゃそうよ。これまでは一度に一点しか呼び出せなかったし。随分と腕をあげたものだわ」

 確かに彼はよく調べていた。彼女の言うことによると、今まで召喚する対象は博物館などの展示品が多かったらしい。ヨーロッパ各地には、江戸から明治にかけて随分と多くの日本製品が輸出されている。博物館や美術館に収められて展示されているものも数多い。見に行って気にったものを集めていたようだ。

 「それが今回は一気に十数点を召喚出来たのだからたいしたものだわ」

 私はあらためて浮世絵を一枚一枚見ていった。知らないものばかりだったが、北斎と思われるものが二枚ある、この人は筆名を何度も変えているので研究者でもない私には確定的なことはわからないのだ。

 なんにせよ、刷り立てのように良い状態の版画は、皆美しいものだった。

 彼女は少し笑顔で「対価にしたものが良かったのかしらね」そんなことを言う。頬がちょっと赤く染まっているように見える。そうだ、私は召喚の対価にされたんだ。おもわず自分の両手を見る、そしてその手で顔をなで、耳を触る。大丈夫、鼻も耳もちゃんとあるようだ。感触も悪くない、つるりとしていつもより良いぐらいだ。洗ってくれたのか。

 「大丈夫よ。なくなったパーツはないようよ。指も全部あるでしょ」

 足の方もあるそうだ。数えてくれたらしい。全部見られたのだろうか、意識を失っているうちに。

 「じゃあどうやって…」

 彼女はニコリと笑顔を作り、手鏡を差し出した。どうみても銀細工の十九世紀ものだ、仕入れれるものならなんとかならないかなあ、そんなことをつい思いながら手に取り覗き込むようにして見る。

 「ええええ!」

 大声を出してしまった。だって髪がなくなっている。いやそれだけじゃなくて眉毛もない。感触が良かったのはこれかよ。手触りがつるっとしたのは当たり前だ。つるっぱげじゃないか。

 

(買付時の注意)

 鏡はコンパクトのような携帯用から壁一面に取り付ける大型のものまで、種類も多く扱いの多いアイテムの一つです。使いやすく場所をとらないので何かとインテリアとして勝手が良いのでしょう。工芸品的な細工を楽しめるものも多く、骨董趣味を始めるなら入門品としてもお勧めです。

 日本で売るときに困るのは、鏡部分が傷んでいるときですね。そのままが良いという人もいれば、鏡はきれいにして欲しいという場合もある。ある意味実用品ですから。小さいサイズなら鏡部分を新品に取替てしまいます。大きくてカットの良いものなら裏張りの銀を剝がして張りなおす事もあります。

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