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欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
集荷
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独立の頃

 独立するきっかけは、親方と一緒にロンドンで仕入れをしていた頃の事だ。

 「ロンドンにも物を置いておける場所が欲しいですね、ボス」と私。

 「そりゃあそうだが、貸し倉庫なんかは結構高いしなあ」と親方。この時はボスと呼ばされていた。

 「どっかのフラットでも借りましょうよ」

 「そんな予算があったら仕入れにつかうわ」

 海外でアンティークを仕事として仕入れるというのは、結構面倒なことだ。

 どんなものを見つけて買い取るのか、というテクニックはこの商売の基本の条件だからこの話ではあまり関係はない。

 日本国内で物を買い取る時は、物はそのまま店に持ち帰れば良い。だが海外では?

 海外旅行の時のスタイルを思い浮かべてみればわかるが、車でもなければ荷物など増やす余裕などほとんどない。車があれば良いかというとそうでもない。結構な額で買付けた品をそのまま車に積んで置けるものではない。

 で、どうするかというと、ある程度量がまとまったところで日本へ小包で発送するという方法がある。日程が短期で買ったものが少量なら悪い手ではない。だが私達の場合は、小はティスプーンから大は家具まで買い付けていたのでそんな手は使えない。なので現地の専門業者を使っていた。

 店で買う、集荷用伝票に記入する、最後に業者に伝票を持ち込み集荷と発送を依頼。あとはまとめて決済して日本に帰って荷物の到着を待つ。まあそんな流れだ。無駄なく全てが進めば。

 実際にはマーケットで直接買い付ける物も多いし、その都度業者さんの倉庫に持ち込むわけにも行かない。ホテルにはそんなに置いておけないし、レンタカーに積みっぱなしは物騒だ。

 日本でもそれなりの大手ならロンドンに駐在員を置いているから、住居がそのまま倉庫代わりにもなっている。駐在員と親しい関係なら場合によっては無理を言って預かってもらったこともある。それでも他業者、いわば商売上のライバルにわざわざ借りを作ることはない。

 「ボス金はあるくせに」

 「バカ野郎、仕事と私生活は別だ、有限会社麻布商店はなあ二十年間黒字決算を続けているんだ、無駄な経費は一銭だってねえんだよ」

 二十年はどうなのかしらないが、ここ五年程、私が勤めだしてからの決算は、確かに毎年黒字を出していた。

 「本来なら税務署のバカ野郎から表彰状もらったっておかしかねえんだ」

 だんだん違う方向にエキサイトしてきたのでクールダウンが必要となった。

 「ボスそろそろお昼にしましょうよ。朝も早かったし小腹が空いてきました」

 「おうそうだな、じゃあそこのレストランに行くか」

 ボスがにこにこして向かったのはフィッシュ・アンド・チップスの店だった。たしかに椅子とテーブルが中にあるタイプではあったが。

 熱々のフライドフィッシュは美味しかった。ポテトをつまみながらふと外を見て小さな看板に気がついた。

 「どうした、外に可愛いい姉ちゃんでもいるのか」日本語だと何を言っても周りにわからないので下品な会話をしがちになる。ボス気をつけたほうが良いですよ。

 「違いますよ、女性なら奥のテーブルになかなかの方がいらっしゃいます」黙って指をさす。女性にではなく窓から見える通りの向かいの建物に。 

 「ん、へえこんなところに貸家か」こんな店があるくらいだから人通りはある。それを目当てにしたお店でもやっていたのだろう。なんとはなしに覗いてみることになった、それがきっかけになるとは思わなかった。俺がやるといろいろ差し障りがあるからお前がやれ、だの。海外に不動産なんか設定したら経理が面倒だからお前がやれ、とか。そんな理由で独立させられるとはね。いろんな理由が世の中にはあるもんだ。

 まあいいですけど。ちゃんと面倒は見て下さいよ。

 「しるかよ、男を囲う趣味はねえんだ。勝手にやれ」それはちょっと酷くないですか、ボス。

 もうボスじゃねえからな。

 それで呼び方を変えることになった。


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