4 これが理由とは思ったが
一番外側の円は場所を表している、らしい。ただ、場所を特定するのに円で表現するのは、リチャードいわく間違っているそうだ。なぜなら、私達のいるところのこの大地は球体であるからだ。しかしこの方法が作られた時代には、世界は平面だと思われていた。したがって秘術は平面を基礎に作られた、そうだ。まったく、アリストテレスをなぜ学ばなかったのか、とリチャードは憤った。まあ中世とはそういう時代ということだ。
それでも殆どのことはこれで間に合った。今までは。
だがリチャードはこれに満足をしなかった。もっと科学的に正確な記述をしなければならないと。地球は平面ではなく球なのだ。球体の概念を取り入れなければならない。
緯度・経度・高度を記述する方法を彼は考えた。
グリニッジを中心にしてもうまく行かなかったので別の基準点を考えた。
時間の特定も必要になった。現在点の定義もいるし、召喚先の時間点も決めなければならない。
こうして円周の数は増え記入する記号は複雑化していった。
学生時代はこんなことばかり考えていたらしい。よく卒業出来たものだと感心してみせると、実は中退していると少し恥ずかしそうにつぶやいた。まあそうだろう、ケンブリッジまで行って残念なことだ。
そして円周群の中心だが、ここは円ではなく星の形になっている。私が椅子に座っている(縛り付けられて)ところだ。だから私からはよく観察出来ないのだが、例の五芒星というやつのようだ。これにも周りと内側に出来ている五角形の中にたっぷりと記号が書き込まれている。
そしてこれが召喚する物を特定するらしい。
ここで重要な話が出てきた。召喚についてだ。
彼によれば、召喚とは結局のところ交換なのだそうだ。質量不変の法則はここでも適用されるのだ。
故に、特定された召喚物と等価の物が必要なのだ、そうだ。その等価の物を考えるのが肝腎なのだ、そうだ。
今まで実はそこが一番難しかったそうだ。なにが等価なのか。何と何が等価で交換の対象になるのかなんて、どんな資料にも書いていないからね。そりゃあそうだ。鉄1キログラムと等価の物ってなんだ、鉄以外で。
散々試行錯誤して、色々と試してみて出せた結論は生贄なのだそうだ。
「生き物は召喚出来ないのじゃなかったのか」
最初の話と矛盾しないか。
「生き物の召喚は出来ない。だがこちらから差し出すのには生き物が都合が良い。なぜなら調整が効くからのようだ」
これも試したそうだ。蛙や蛇や鼠などのおなじみのものを色々と。
「結果、うまく行った」そうだ。
召喚物と関連があるものほど成功率は高い。
だんだん悪い予感がしてきた。
「そこで君だ。君ならきっと良い相性があるだろう」
やっぱりそうくるのかとは思ったが、一応聞いてみた。
「何と合うと言いたいんだ」
「もちろん浮世絵だよ。北斎や哥麿や写楽とだよ。君なら深い知識がある。どれに価値があるのか良く分かっている。ぴったりじゃないか、江戸の蔦屋の店にある浮世絵と等価交換するのに」
ああまったくなんでこうなった。
(買付時の注意)
ケンブリッジと言えば日本でも有名人の履歴に名前が時々でてきます。でもあれはほとんど短期留学なんですよね。それだけでも大したものではあるんでしょうけれど、まともに入学しようとするとパブリックスクールぐらいから学歴を積んで行かないといけないんじゃなかったかと思うのですが。入学も難しいが卒業はもっと難しいとも聞きます。ちゃんと勉強していないと中退に簡単になってしまうようです。
街自体は綺麗なところで誰でも観光に行けます。トレーナーなどのお土産品も色々あります。