38 提案
親方のヨーロッパ滞在中はほとんどダイアナの街で過ごしていたらしい。最初は私のようにダイアナ邸で、しばらくしてからは街中の小さなホテルに居たそうだ。なんでもあのメイドさんの実家だそうだ。
滞在中はダイアナ邸の各種コレクションを堪能していたらしい。
「あのままじゃあ公開は出来ないな」ものが有りすぎて見るものが消化不良を起こすそうだ。「手頃な建物を見繕ってきた」そうだ。
「建物って?」
「一口乗ろうと思ってな」
あの街の観光地化に投資する気になったそうだ。それも受け入れ側にまわりたいようだ。
「なんでまたそんなチャレンジングなことを…」
「そんなに大きなリスクでもないだろう。お前の企画は結構いい線いってると思うぞ」デベロッパーの行う開発みたいに、大きな資本投下での大勝負は望むべくもない。しかしあの街にはそんな大開発はそぐわない。見た目はあのままで、受け入れる仕組みを作り上げれば良い。
「ダイアナ嬢の営業は大成功だったようだな。俺がいる時だけでも大口が5件ほど決まりかけていたからな。どんなプレゼンをやったんだよ」
いけるとふんだ親方は、店を構えて訪れる観光客を相手に商売する気になったのだ。
「何を商うんです?日本物をこっちから持っていくんですか」
「そんな効率の悪いことなんかやってられるかよ。まあアクセント的に和物があってもいいがな。売るのは西洋アンティークだな、いかにもあの街に似合うようなな」ようはあの辺りから掘り出し物的に出てきたような、すれていない、初なものを並べて、田舎で値打ち物を安く手に入れた気分にさせるようなものを商うのだそうだ。
「目利きになったつもりの素人に、旅行でゆるくなった財布の紐を、よりゆるゆるにしてしまおうという事だな」そんなにうまくいきますかね。
「で、お前はどうする。いや、どうしたいんだこれから」急にそんなこと言われても。
このところの私の動きを、親方は見てきたかのように把握していた。仕入れから販売まで、一通りを私はこなしてきていた。いつものことと思っていたが、これまではどこかに親方の手が入っていたのだ。あたりまえではあるのだが。
今回に限って言えば、確かに仕入れから輸送から、銀行決済から通関から、そして販売まで。確かに私一人の段取りでやってきた。もちろんお嬢やアルバイト諸君の動きもあったのではあるが、それもひっくるめての私の段取りだ。
「どうする?娘を嫁にでもして俺の後でも継ぐかい」いやそんなつもりは。
「そうだよな、一月ばかり二人っきりにしてたというのに浮いた話の一つもなさそうだし」わかるんですか。
「そんなのは娘の顔を見りゃあ分かるさ、つまんなさそうな顔してるじゃないか」




